中国メーカーの急速な台頭によって、欧州の自動車産業はいま大きな岐路に立たされています。
EVの航続距離や充電性能、大型ディスプレイ、ソフトウェア、価格競争力など、中国車が次々と新しい基準を作るなか、欧州メーカーもそれを追いかけるようにデジタル化と電動化を進めてきました。
しかし、Rimac(リマック)創業者でありBugatti Rimac(ブガッティ・リマック)CEOを務めるマテ・リマックは、そもそもその戦い方自体が間違っているのではないかと指摘しています。
彼が提案するのは、中国メーカーより大きな画面を搭載することでも、さらに速い充電技術を開発することでもありません。
むしろ「欧州車が本来持っていた価値へ戻ること」です。
中国メーカーの得意分野で戦っても勝てない
リマックが問題視しているのは、欧州メーカーが中国メーカーの強みをそのまま追いかけていることです。
現在の中国車では、大型ディスプレイや高度なインフォテインメント、少ない物理スイッチ、高速充電といった要素が急速に進化しており、新型車の開発スピードについても欧州メーカーを圧倒するケースが珍しくなくなりました。
そのため欧州メーカーが「さらに大きな画面」「さらに少ないボタン」「さらに速い充電」を目指したところで、中国メーカーを上回ることは容易ではありません。
リマック自身も最先端EVハイパーカーを生み出してきた人物であり、さらにRimac TechnologyはEV用バッテリーやパワートレインなどを手掛けています。
つまり、彼の発言は単純な「デジタル嫌い」や「EV否定」ではありません。
最先端の電動化技術を知り尽くした人物だからこそ、技術だけを競争軸にしてしまえば、欧州メーカーが中国メーカーとの終わりのない開発競争に巻き込まれる危険性を感じているのでしょう。
リマックが示した答えは「革と本物の素材」
興味深いのは、リマックがこの主張をヴィンテージのロールス・ロイスの車内から発信したことです。
そこにあるのは巨大なディスプレイではなく、革や金属をはじめとする上質な素材と、物理的に操作するスイッチ類です。
リマックが欧州メーカーに求めているのは、まさにこうした「本物の素材」が生み出す価値です。
自動車がデジタルデバイスへ近づけば近づくほど、画面サイズやプロセッサー性能、ソフトウェアといった数値化しやすい性能が注目されます。しかし、それらは競合メーカーに追いつかれやすく、数年後には陳腐化してしまう可能性があります。
一方、上質な革の触感や金属製スイッチの操作感、ドアを閉めたときの音、シートに座った瞬間に感じる質感などは、単純なスペック表だけでは比較できません。
リマックは、そこに欧州メーカーが生き残るヒントがあると考えているのです。
ヒントはスイス時計にある
リマックは欧州自動車産業の将来を考えるうえで、スイスの時計産業を例に挙げています。
時計は時間を確認するための道具という意味では、スマートフォンや数千円のクォーツ時計でも役割を果たします。それでもロレックスやパテック フィリップ、オーデマ ピゲなどの高級機械式時計には、数百万円、場合によっては数千万円という価格が付けられています。
購入者が買っているのは、単純な「時間を知る機能」ではありません。
歴史、ブランド、デザイン、素材、職人技、機械式ムーブメント、そして所有する満足感までを含めた体験に価値が付いているからです。
リマックが欧州車に求めているのも、これに近い考え方でしょう。
中国メーカーと航続距離やディスプレイサイズ、充電時間を競うのではなく、「このクルマだから欲しい」と思わせる価値を作る。その方向へ進まなければ、欧州メーカーの存在意義そのものが薄れてしまう可能性があります。
メルセデスやBMW、アウディにも当てはまる問題
この議論はブガッティやロールス・ロイスのような超高級車だけの話ではありません。
むしろ難しい立場に置かれているのは、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディといったプレミアムメーカーでしょう。
かつてドイツ車には、スイッチを操作したときの感触や重厚なドア、シートの作り込みなど、スペックには表れない部分にも明確な価値がありました。
ところが近年は大型ディスプレイを中心としたインテリアが増え、物理スイッチも減少しています。
もちろんデジタル化そのものが悪いわけではありません。しかし、中国メーカーが同等以上のディスプレイやソフトウェアをより低価格で提供するようになれば、「欧州プレミアムブランドを選ぶ理由」がブランドエンブレムだけになってしまう危険があります。
実際、中国市場の変化はすでに欧州メーカーの経営に影響を及ぼしており、BMWも中国向け車両を現地ユーザーの嗜好へ大幅に最適化する方針を打ち出しています。
ただし「高級車になれば解決する」ほど単純ではない
一方で、リマックの考え方には難しい部分もあります。
ブガッティであれば年間生産台数が極めて少なくても、1台あたり非常に大きな利益を確保できます。しかし、メルセデス・ベンツやBMW、アウディ、フォルクスワーゲンといった巨大メーカーは、数十万〜数百万台規模の生産設備や販売網、従業員を抱えています。
すべての欧州メーカーがスイス高級時計のようなビジネスモデルへ移行できるわけではありません。
また、中国メーカー自身も急速に高級化しています。
今後、中国メーカーが価格やデジタル技術だけでなく、素材、デザイン、乗り心地、ブランドストーリーといった領域まで成熟してくれば、「欧州車=高級、中国車=高コスパ」という単純な構図も成立しなくなるでしょう。
だからこそ、欧州メーカーに残された時間はそれほど長くないのかもしれません。
「性能」ではなく「欲しい理由」を作れるか
リマックの発言で最も重要なのは、「革を増やせば欧州車が復活する」という表面的な話ではないでしょう。
本質にあるのは、競合メーカーの得意分野を追いかけるのではなく、自分たちにしか作れない価値をもう一度考えるべきだというメッセージです。
100km走るために必要な充電時間が数分短いことや、ディスプレイが数インチ大きいことは確かに便利ですが、それだけで10年後、20年後にも欲しいと思えるクルマになるとは限りません。
一方、ポルシェ911やメルセデス・ベンツGクラス、ランドローバー・ディフェンダーのように、時代が変わっても「それでなければならない理由」を持つクルマは強い存在感を保ち続けています。
中国メーカーとの競争が激しくなるほど、欧州メーカーに必要になるのは中国車をコピーすることではなく、「なぜ自分たちのクルマを選ぶのか」という問いに明確な答えを出すことなのではないでしょうか。
デジタル技術やEV性能を進化させながら、それだけでは代替できない素材、デザイン、走り、歴史、そして所有する喜びを組み合わせる。
マテ・リマックが語る「中国問題への答え」は、一見すると昔ながらの高級車への回帰に見えますが、その本質はむしろ、これからの欧州車が生き残るためのブランド戦略そのものと言えそうです。
参考・出典:CarBuzz / Rimac Technology / Reuters




