名デザイナーが愛したポルシェ914/6、約3,800万円で落札 RUFが仕立てた異色の一台

ポルシェのクラシックモデルと聞けば、多くの人が真っ先に911を思い浮かべるでしょう。しかし今回、オークションで22万5,000ユーロ(約3,800万円)という高値で落札されたのは、911ではありません。

主役となったのは1970年式ポルシェ914/6。それも単なる希少な914/6ではなく、ランボルギーニ・ムルシエラゴやガヤルドなどを手掛け、現在はヒョンデ・モーター・グループおよびジェネシスでデザインを率いるルク・ドンカーヴォルケが所有し、さらにドイツの名門RUFが徹底的に手を入れた特別な一台です。

914は長年、911の陰に隠れがちな存在でした。しかし、一流の自動車デザイナーが自ら所有し、RUFとともに理想の一台へ仕立て上げたという事実は、このミッドシップ・ポルシェが持つ魅力を改めて浮き彫りにしています。

目次

911ではなく「914」を選んだルク・ドンカーヴォルケ

この914/6を所有していたルク・ドンカーヴォルケは、自動車デザインの世界では極めて著名な人物です。

フォルクスワーゲン・グループ時代にはランボルギーニのムルシエラゴやガヤルドなどに携わり、その後はベントレー、ヒョンデ、ジェネシスへと活躍の場を広げてきました。

そんな人物が数ある名車の中から914/6を選び、自らの理想を反映させるベースとした点は非常に興味深いところです。

914は1960年代末にフォルクスワーゲンとポルシェの共同プロジェクトとして誕生し、エンジンを車体中央に搭載するミッドシップレイアウトを採用しました。一般的な914にはフォルクスワーゲン系の水平対向4気筒エンジンが搭載されたため、当時のポルシェファンから必ずしも高く評価されたわけではありません。

一方、914/6には911 T由来の2.0リッター水平対向6気筒エンジンが搭載されており、914の軽量なミッドシップシャシーとポルシェらしいフラット6を組み合わせた、現在では非常に希少な存在となっています。

1975年にはすでにGTスタイルへ

今回落札された個体は1970年式で、新車時にはベルギーへ納車されました。

特徴的なのは、ドンカーヴォルケが所有するはるか以前の1975年に、ベルギーのAntwerpse Automobile Companyによって914/6 GTを思わせる仕様へと変更されていたことです。

スチール製のワイドフェンダーやボディ補強、幅広の15インチFuchsホイールなどが装着されており、もともと特別な経歴を持った914/6でした。

その個体をドンカーヴォルケが2020年に購入し、さらなる進化を求めて持ち込んだ先がRUFでした。

RUFが914/6を本気で作り直した

RUFと聞けば、「Yellowbird」の愛称で知られるCTRをはじめ、911をベースとした高性能モデルを思い浮かべる人が多いでしょう。

ところが今回の914/6では、RUFの技術が911ではなくミッドシップの914へ注ぎ込まれました。

エンジンはオリジナルの水平対向6気筒をベースとしながら、Mahle製87.5mmピストンとシリンダーなどを使用して排気量を2.0リッターから2.4リッターへ拡大。さらにツインプラグ化され、デュアルWeber製トリプルバレルキャブレターやFriedrich Motorsport製ステンレスエキゾーストなども組み合わされています。

RUFによる改良後の最高出力は約190hp(約193PS)とされており、数字だけを見れば現代のスポーツカーとして驚くほどのものではありません。しかし、軽量な914のボディにフラット6と5速MTを組み合わせることを考えれば、このクルマの魅力が単純な最高出力では測れないことが分かります。

917やRSRを思わせるブレーキまで採用

エンジンだけを強化したレストモッドではない点も、この914/6の面白さです。

RUFはブレーキシステムにも手を入れており、917/RSR系のキャリパーやバランスバー式ブレーキシステムを採用。さらに40%リミテッドスリップデフ、軽量フライホイール、新しいクラッチ、モンテカルロ仕様を意識したオイルクーリングシステムなどが組み込まれています。

外装についても、ボンネットやエンジンカバー、バンパーなどをグラスファイバー製へ変更し、フロントにはレーシングカーを思わせるセンター給油口を設置。ボディカラーはオリジナルのレモンイエローからグランプリホワイトへ変更されています。

一方で、1975年に装着されたスチール製ワイドフェンダーは残されており、このクルマが歩んできた歴史そのものを消してしまうのではなく、過去の改造を生かしながら完成度を高めているところも特徴です。

室内も完全なレーシングスタイル

インテリアも、クラシックカーを豪華に仕立てる方向ではありません。

Recaro製シートにWillans製ハーネス、Heigo製ロールケージ、MOMO Prototipoステアリングを採用し、メーターパネルには10,000rpmまで刻まれたVDO製タコメーターを配置するなど、明確にモータースポーツを意識した仕上がりです。

それでもドイツでは公道走行可能な登録が行われており、単なるサーキット専用車ではありません。

つまりこの914/6は、現代的な快適装備を追加した一般的なレストモッドというより、1970年代に存在した究極の914/6 GTを、現代の技術とRUFのノウハウで再構築したような一台と考えた方が近いでしょう。

約3,800万円という価格は高いのか

この914/6はBring a Trailerのオークションに出品され、33件の入札を経て22万5,000ユーロで落札されました。

1ユーロ=約169円として単純換算すると約3,800万円です。

一般的な914というイメージから考えれば驚くほどの金額ですが、この個体については「914の相場」だけで価値を判断するのは難しいでしょう。

そもそも希少な914/6であることに加え、1970年代からGTスタイルへの改造が施されていた履歴があり、さらに著名な自動車デザイナーであるドンカーヴォルケが所有。そのうえRUFが大規模な再構築を行っているため、同じ仕様をもう一度作ろうとしても簡単には再現できません。

つまり約3,800万円という価格には、車両そのものだけでなく、「誰が所有し、誰が作り、どのような歴史を歩んできたのか」というプロヴェナンス(来歴)まで含まれているのです。

914は「安いポルシェ」ではなくなった

914は長い間、911ほど高く評価されてきませんでした。

フォルクスワーゲンとの共同開発という出自や4気筒モデルの存在もあり、「本物のポルシェなのか」という議論さえ付きまとったモデルですが、現在の視点から見ると評価すべきポイントはむしろ多くあります。

軽量なボディ、低い着座位置、ミッドシップレイアウト、タルガトップ、そして914/6なら水平対向6気筒という組み合わせは、後のボクスターやケイマンにもつながるポルシェのミッドシップスポーツの原点ともいえるものです。

さらに914/6 GTはモータースポーツでも実績を残しており、1970年のル・マン24時間では914/6 GTが総合6位に入っています。

911とは違う道を歩んだからこそ、半世紀以上を経た現在になって、その独自性が価値として見直され始めているのでしょう。

名デザイナーとRUFが証明した914の可能性

今回の一台で最も興味深いのは、22万5,000ユーロという落札価格そのものではないのかもしれません。

ムルシエラゴやガヤルドをはじめ、世界的に知られる自動車のデザインに携わってきたドンカーヴォルケが、自分のためのクルマとして914/6を選び、さらにRUFというポルシェを知り尽くしたスペシャリストとともに徹底的に作り込んだことに、大きな意味があります。

911のレストモッドは現在では決して珍しくありません。しかし、914という少し異端だったポルシェをベースに、その素性の良さを引き出す方向で作り込んだこのクルマには、911とはまったく異なる魅力があります。

かつて「安価なポルシェ」と見られることもあった914が、名デザイナーとRUFの手を経て約3,800万円で新たなオーナーのもとへ渡ったという事実は、クラシックカーの価値がブランドや最高出力だけでは決まらないことを象徴する出来事といえそうです。

参考・出典:Motor1 / Bring a Trailer / GTspirit / The Drive

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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