ポルシェ718をめぐる計画が、またしても大きく変わりました。
MOTION & TIMEでは先日、次世代「718 Boxster(ボクスター)」と「718 Cayman(ケイマン)」について、EVだけではなくガソリンエンジンを搭載した高性能モデルも投入される方針だとお伝えしました。

当時は、EV版718と内燃機関を搭載する高性能718が共存し、「EVかガソリンか」を選べるラインアップになる可能性が高まっていました。
しかし、その計画が再び覆されました。
ポルシェは2026年10月7日に発表した新経営戦略「Sportwagenschmiede ’35」のなかで、次期718 Boxster/Caymanを完全電気自動車として展開する方針を明確化。Motor1もポルシェに確認し、以前計画されていた内燃機関搭載718について「現在の製品計画には含まれていない」と報じています。
つまり、一度は復活するはずだったガソリン版718は、再び姿を消すことになりました。
718は「EV専用→ガソリン復活→再びEV専用」へ
次期718をめぐる流れは、かなり複雑です。
もともとポルシェは718 Boxster/Caymanを次世代モデルで完全EV化する計画を進めており、従来型の内燃機関718は2025年10月に生産を終了しました。
ところがEV需要が当初の想定ほど伸びず、ポルシェ自身も電動化戦略の修正を迫られます。
そのなかで2025年9月、ポルシェは次世代718について、EVモデルに加えて「トップエンド」の高性能モデルに内燃機関を採用する方針を明らかにしました。
GT4やSpyder、さらにはGT4 RSの後継に相当するモデルで水平対向エンジンが生き残る可能性が浮上し、718ファンにとっては大きな朗報でした。
MOTION & TIMEでも前回の記事で、EVの圧倒的なレスポンスと、水平対向エンジンのサウンドやフィーリングをユーザー自身が選べる718になる可能性について紹介しています。
しかし2026年10月7日、そのシナリオは再び変更されました。
ポルシェは新戦略「Sportwagenschmiede ’35」において、次期718 Boxster/Caymanを完全電気自動車として明確に位置づけています。
ポルシェに確認「ガソリン718は現在の製品計画にない」
今回の情報で重要なのは、単なる噂ではないという点です。
Motor1はポルシェに対して、以前発表されていた内燃機関718の計画について確認しており、ポルシェ側はガソリンエンジンを搭載する718 Boxster/Caymanについて「現在の製品計画には含まれていない」と回答しています。
さらにポルシェ自身が発表した新戦略でも、今後の718について「all-electric 718 Boxster and Cayman models」と明記しました。
したがって現時点では、次世代718はBoxster、CaymanともにEV専用となり、以前予定されていた高性能ガソリンモデルも登場しないと考えるのが妥当でしょう。
次期718 EVは2027年登場へ
一方、長期間にわたって開発が続いてきた718 EVそのものは、いよいよ市販化が近づいています。
ポルシェは次期718 Boxster/Caymanについて、2027年に市場投入し、最初の通年販売となる2028年から販売への本格的な貢献を見込んでいます。
開発車両についても大きな進展があり、次期718では一般的なEVとは異なる特徴的なバッテリー配置が採用されます。
一般的なEVでは床下へ薄いバッテリーを敷き詰める「スケートボード型」が主流ですが、次期718では「E-Core」と呼ばれる構造を採用し、バッテリーをシート後方、従来の718でエンジンが存在していた位置へ集中的に配置します。
これは単なるパッケージング上の違いではありません。
718というクルマの最大の特徴だった「ミッドシップスポーツカーらしさ」を、EVになっても可能な限り残すための設計です。
EVになっても「718らしさ」を残せるか
従来型718は、ドライバーの後方かつリアアクスルの前方にエンジンを配置することで、非常に優れた重量バランスと旋回性能を実現してきました。
次期718ではエンジンの代わりにバッテリーを車体中央へ集めることで、EV特有の重量増加という弱点を抱えながらも、従来の718に近い運動特性を実現しようとしています。
実際、開発車両ではリア側の重量配分が約55.2%とされており、従来型Boxsterの約59.8%よりも前後50:50に近づいています。
さらに800V電気アーキテクチャを採用することも明らかになっており、急速充電性能についてもポルシェらしい高い水準が期待できます。
そして興味深いのが、疑似的な変速感覚やサウンドを生み出す「E-Shift」です。
EVだからエンジン車の感覚をすべて捨てるのではなく、ドライバーが操作する楽しさを電動パワートレインのなかで再構築しようとしている点に、ポルシェの考え方が表れています。
なぜ「ガソリン復活」をわずか1年ほどで撤回したのか
ここで疑問になるのが、なぜポルシェは一度発表したガソリン718の復活計画を撤回したのかという点です。
今回、ポルシェが掲げた新戦略で重要なキーワードとなっているのが「Value over Volume」、つまり販売台数よりも1台あたりの価値を重視する考え方です。
同社は今後、モデルバリエーションを約20%削減する一方、各モデルの販売台数を平均約30%増やすことで、開発や生産の複雑性を減らそうとしています。
さらに将来のモデルラインについて、開発コストを最大20%削減することも目標に掲げています。
こうした状況を考えれば、すでにEV専用アーキテクチャとして開発が進んでいる718へ、販売台数の限られる高性能モデルのためだけに内燃機関を組み込むことは、新たなポルシェの経営方針とは噛み合いません。
特に次期718のE-Coreは、バッテリーそのものを車体構造の一部として利用します。
そこへ再びエンジン、トランスミッション、燃料タンク、冷却系、排気系などを組み込むのであれば、大規模な再設計が必要になる可能性があります。
ガソリン718を「作れない」というより、「718だけのためにそこまで投資する合理性がなくなった」と考えた方が自然でしょう。
ただし、ポルシェは内燃機関を捨てたわけではない
今回の決定で非常に興味深いのは、ポルシェ全体としてはむしろEV一本化から離れようとしていることです。
新戦略では、内燃機関/PHEVとEVを並行して展開する「3本柱」のパワートレイン戦略を継続し、内燃機関やPHEVにも積極的に投資する方針が示されました。
さらに911については、完全EV化しない方針も明確になっています。
つまり今回の718 EV専用化は、「ポルシェが再びEVへ全面移行する」という話ではありません。
911では内燃機関を守り、718にはEVスポーツカーとしての役割を与える。
モデルごとにパワートレインの役割を明確に分ける方向へ進んでいると見ることができます。
さらに「911より上」のミッドシップスポーツも
そして、ここでさらに興味深い動きがあります。
ポルシェは同じ「Sportwagenschmiede ’35」のなかで、911より上位に位置する新たなミッドシップ・スーパースポーツカーのプラットフォームを開発する方針も明らかにしました。
MOTION & TIMEでは、この新型ミッドシップスポーツについて、以前報じられていたフラット8搭載ハイパーカー「S1」計画との関連も含めて紹介しています。
718から内燃機関が姿を消す一方、そのさらに上には新しいミッドシップスポーツカーが誕生する可能性がある。
もしこちらに内燃機関が採用されるのであれば、かつて718 GT4 RSやSpyder RSが担っていた「ミッドシップ+高回転型エンジン」という魅力が、より上位のモデルへ移される可能性も考えられます。
「EVかガソリンかを選べる718」は幻に
前回の記事では、次期718について「EVかガソリンかをユーザー自身が選べるスポーツカーになる可能性がある」とお伝えしました。
残念ながら、その未来は実現しないことになりそうです。
一度はEV専用として計画され、その後ガソリンモデルの復活が決まり、そして再びEV専用へ戻る。
ここまで計画が揺れ動いたこと自体が、ポルシェだけでなく自動車業界全体が「電動化をどこまで進めるべきなのか」という難しい判断を迫られていることを象徴しているようにも感じます。
ただし、次期718にとって本当に重要なのは、パワートレインがEVであることそのものではありません。
エンジン音もなければ、自然吸気フラット6が高回転まで吹け上がる感覚もありません。それでもステアリングを切った瞬間に「これは718だ」と感じられるスポーツカーをポルシェが作れるのか。
ミッドシップの考え方をバッテリー配置にまで落とし込んだE-Coreを見る限り、ポルシェもその難しさは十分理解しているのでしょう。
ガソリン718復活という期待が消えたからこそ、次期718 EVには、これまで以上に高い完成度が求められることになります。
参考・出典:Motor1 / Porsche Newsroom / Car and Driver / MOTION & TIME




