かつてスポーツカーの象徴ともいえる存在だった「リトラクタブルヘッドライト」。
ライトを点灯するとボディからヘッドライトが姿を現すこの機構は、ランボルギーニ・カウンタックやフェラーリF40、マツダRX-7など数多くの名車に採用されました。
しかし、安全性や空力性能、重量、コストなどの問題から徐々に姿を消し、現在では新車で見ることはほぼありません。
そんな中、メルセデス・ベンツが「現代版リトラクタブルヘッドライト」ともいえる興味深い技術を検討していることが明らかになりました。
メルセデスが「隠れるヘッドライト」を特許出願
公開された特許は「Headlight arrangement for a vehicle(車両用ヘッドライト装置)」と呼ばれるものです。
Mercedes-Benz Group AGによるもので、欧州特許「EP4680493A1」は2023年3月13日に優先権が設定され、2024年1月24日に出願、2026年1月21日に公開されています。
さらに米国でも「US-20260257611-A1」として2026年9月3日に公開されています。
今回の仕組みで特徴的なのが、ヘッドライトそのものを格納するのではなく、ヘッドライトの前を可動式のフラップ(カバー)で覆うという点です。
ヘッドライトが必要ないときにはカバーによってライトユニットを隠し、必要になればカバーが移動してヘッドライトを露出させます。
つまり、1980~1990年代のようにライトユニット全体が「パカッ」と持ち上がるわけではありません。
現代の安全基準や空力性能を考慮しながら、リトラクタブルヘッドライトのような演出を実現しようとしているわけです。
デイタイムランニングライトは常に見える
さらに面白いのは、すべてのライトを隠してしまうわけではないということです。
特許では複数のライトモジュールが想定されており、そのうち一部を可動式フラップで覆う一方、別のライトモジュールは常に露出した状態となります。
そのため、デイタイムランニングライトなどを常時表示させながら、メインのヘッドライトだけを必要に応じて隠す、といったデザインが可能になります。
近年のメルセデスでは、ヘッドライト内部のグラフィックそのものがブランドアイデンティティの重要な要素となっています。
将来的には細いデイタイムランニングライトだけを残し、ロービームやハイビーム用の大型ライトモジュールをボディ内部に隠す、といったデザインも考えられそうです。
カバーはボディ内部へ格納
このシステムのポイントは、カバーの動きにもあります。
特許では可動式フラップがガイド機構によって移動し、開いた際にはボディ側へ格納される構造が示されています。
ヘッドライトを使用していない状態ではカバーによってフロント部分を滑らかな面にできるため、デザイン上のメリットだけでなく、空力性能の向上にもつながる可能性があります。
また、ヘッドライトを使用していないときにレンズを覆えるため、汚れや飛び石などからライトを保護できるというメリットも考えられます。
なぜ今「隠れるヘッドライト」なのか
現在の自動車デザインでは、ヘッドライトを可能な限り薄く、小さく見せることがひとつのトレンドになっています。
LEDやレーザーなど光源技術の進化によってライトユニット自体を小型化できるようになり、かつてのように巨大なヘッドライトをフロントマスクに配置する必要がなくなりました。
さらにEVでは大型エンジンを冷却するためのグリルも必須ではありません。
その結果、フロント部分をより滑らかでシームレスなデザインにする自由度が高まっています。
メインヘッドライトまで完全に隠せるようになれば、昼間のフロントデザインはさらにシンプルにできます。
そして夜になるとカバーが開き、ヘッドライトが姿を現す。
これは単なる機能ではなく、クルマに「動き」を与えるデザイン演出としても非常に魅力的です。
かつてのリトラクタブルヘッドライトとは何が違う?
従来型との最大の違いは、ヘッドライトユニットそのものを大きく動かす必要がないことです。
| 項目 | 従来型リトラクタブルライト | メルセデスの特許技術 |
|---|---|---|
| 動く部分 | ヘッドライト本体 | ヘッドライト前のカバー |
| 点灯時 | ライトがボディから突出 | カバーが移動しライトを露出 |
| 消灯時 | ライトをボディ内部へ格納 | カバーでライトを隠す |
| 空力への影響 | 点灯時に大きくなりやすい | 比較的小さいと考えられる |
| DRL | 基本的になし | 別モジュールとして常時表示可能 |
| デザイン | 1980~1990年代的 | 現代的なシームレスデザイン |
昔ながらのリトラクタブルライトをそのまま復活させるのではなく、現在のクルマに合わせて考え直したシステムといえそうです。
次世代メルセデスに採用される?
現時点で、この技術がどのモデルに採用されるのかは明らかになっていません。
そして重要なのは、特許が存在するからといって市販化されるとは限らないという点です。
自動車メーカーは将来の可能性を確保するため、実際には市販しない技術についても数多くの特許を取得しています。
そのため、次期SクラスやAMG GT、あるいは次世代EVに採用されると現時点で断定することはできません。
しかし、メルセデスがヘッドライトを単なる「照明」ではなく、車両デザインそのものを変化させる装置として研究していることは非常に興味深いところです。
「パカパカライト」が現代に帰ってくる?
リトラクタブルヘッドライトが好きだったクルマ好きにとって、今回の特許は少しワクワクするニュースではないでしょうか。
もちろん、カウンタックやRX-7のようにヘッドライトそのものが飛び出してくるわけではありません。
それでも、エンジンを始動し、夜になった瞬間にフロント部分のカバーが動いてヘッドライトが姿を現す――。
そんな演出が実現すれば、現在のクルマでは失われつつある「機械が動く楽しさ」を取り戻せるかもしれません。
メルセデスがこの技術を本当に市販車へ投入するのか。
今後登場するコンセプトカーや次世代モデルのフロントデザインにも注目です。
参考・出典:CarBuzz / Mercedes-Benz




