メルセデス、全固体電池の実用化へ前進 ProLogiumと大型契約、次世代EVは航続距離1000km時代へ

Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)が、EVの未来を大きく変える可能性を持つ「全固体電池」の実用化に向けて、さらに大きな一歩を踏み出しました。

メルセデスは台湾のバッテリー企業ProLogium(プロロジウム)との協力関係を強化し、同社が開発する最新世代「Gen4」リチウムセラミックバッテリーセルについて共同試験契約を締結しました。

メルセデスはすでに米国のFactorial Energy(ファクトリアル・エナジー)とも全固体電池を共同開発しており、実際にEQSへ搭載したテスト車両では1回の充電で1,205kmを走破しています。

今回注目したいのは、メルセデスがFactorialだけに全固体電池の未来を託しているわけではないことです。異なる技術を持つ複数の企業と協力しながら、次世代EVの核心となるバッテリー技術を見極めようとしています。

目次

メルセデスがProLogiumの最新「Gen4」を評価へ

メルセデスとProLogiumの関係は今回突然始まったものではなく、両社は長年にわたり次世代バッテリー技術で協力してきました。

今回の契約によってメルセデスは、ProLogiumが開発した第4世代となる「Gen4 Superfluidized Inorganic Next-Generation Lithium Ceramic Battery」のセルへ優先的にアクセスし、電気性能だけでなく熱特性や安全性などを詳しく検証していきます。

試験はメルセデスの施設だけではなく、第三者機関も利用して進められる予定です。

ProLogiumのGen4ではセラミックセパレーター技術に加え、不燃性の無機電解質が採用されていることが大きな特徴で、高いエネルギー密度、安全性、高出力性能などをバランスさせることが期待されています。

従来のリチウムイオン電池では液体電解質が使用されていますが、全固体電池ではこれを固体材料へ置き換えることで、安全性やエネルギー密度を大幅に改善できる可能性があります。

全固体電池がEVを大きく変える理由

現在のEVでは「航続距離」「充電時間」「バッテリー重量」「安全性」が大きな課題となっていますが、全固体電池はこれらを一気に改善できる可能性を秘めています。

特にエネルギー密度が高まれば、同じサイズのバッテリーでもより多くの電力を蓄えることができるため、単純に航続距離を延ばすだけではなく、現在と同じ航続距離を維持しながらバッテリーを小型・軽量化するという選択肢も生まれます。

項目全固体電池で期待される変化
航続距離エネルギー密度向上による長距離化
充電性能より高速な充電への対応
安全性不燃性電解質などによる熱安全性向上
重量同容量なら小型・軽量化できる可能性
車両設計バッテリー搭載スペースの自由度向上

もちろん、これらは全固体電池であれば自動的にすべて実現するわけではなく、量産性や耐久性、コストなど解決すべき課題も残されています。

だからこそ今回のニュースで重要なのは、単に新しいバッテリーが完成したことではなく、メルセデスが量産車への採用を見据えた評価を本格化させている点でしょう。

すでにメルセデスは1,205km走行に成功

さらに興味深いのが、メルセデスにはすでに全固体電池を実車で走らせた実績があることです。

こちらで使用されたのはProLogiumではなく、もうひとつのパートナーである米国Factorial Energyのリチウム金属全固体電池でした。

メルセデスはEQSをベースとしたテスト車両にFactorial製セルを使用したバッテリーシステムを搭載し、ドイツ・シュトゥットガルトからスウェーデン・マルメまで1,205kmを途中充電なしで走破しています。

しかも到着時には、まだ137km相当の航続可能距離が残されていました。

さらにバッテリーの重量とサイズは標準仕様のEQSと同等クラスに維持しながら、使用可能なエネルギー容量は約25%増加したとメルセデスは説明しています。

つまり全固体電池は、研究室の中だけの技術から「実際の自動車で長距離を走れる技術」へと着実に進み始めています。

なぜメルセデスは2社と全固体電池を開発するのか

ここが今回のニュースで特に興味深いところです。

メルセデスはFactorial Energyとの開発を続けながら、ProLogiumの技術についても本格的な評価を進めています。

一見すると競合する技術へ同時に投資しているようにも見えますが、まだ全固体電池の「最終的な正解」が決まっていない現在では、むしろ合理的な戦略と考えられます。

Factorialがメルセデスと実車試験を進めている一方、ProLogiumは独自のリチウムセラミック技術を開発しており、それぞれ材料構成や製造方法、量産化へのアプローチが異なります。

複数の技術を同時に評価することで、メルセデスは性能だけではなく、耐久性、安全性、製造コスト、量産性まで含めて最適な技術を選択できることになります。

EVの性能を左右する最大級の部品がバッテリーであることを考えれば、この分野で一つの技術だけに依存しないことは、将来の競争力を確保するうえでも重要でしょう。

ProLogiumは欧州で最大44GWhの工場を計画

そして今回の提携を「研究開発だけの話」と考えるべきではない理由がもう一つあります。

ProLogiumはすでに台湾でバッテリー工場を運営しており、さらにフランス・ダンケルクには最大44GWh規模となる生産拠点を計画しています。

この工場が本格稼働すれば、欧州の自動車メーカーへ全固体電池を供給する体制が整うことになり、当然ながらメルセデスも重要な供給先候補の一つとなります。

全固体電池最大の壁は、優れた試作品を作ること以上に「自動車へ搭載できる品質のセルを大量かつ安定して生産すること」にあります。

その意味では今回の契約は、単なる技術評価ではなく、将来的な量産車への搭載を見据えた重要なステップと言えそうです。

メルセデスEVは「1000km」が特別ではなくなるのか

現在、1回の充電で1,000km以上を走れるEVは極めて特殊な存在ですが、メルセデスがFactorial製全固体電池を搭載したEQSで1,205kmを走破したことを考えると、その未来は以前ほど非現実的ではなくなってきました。

ただし、市販車で1,000kmという数字を追求することだけが全固体電池のメリットではありません。

例えば700〜800km程度の航続距離で十分なのであれば、余った性能をバッテリーの小型化や軽量化に振り向けることができ、車両重量を減らせれば電費だけでなく、ハンドリングやタイヤへの負担などにもメリットが生まれます。

高級EVでは大容量バッテリーによって車重が2.5トンを超えるモデルも珍しくなくなっていますが、全固体電池が本格的に普及すれば「巨大なバッテリーを積んで航続距離を稼ぐ」という現在のEV設計そのものが変わる可能性があります。

メルセデスは全固体電池の実用化を本気で狙っている

全固体電池については長年「夢のバッテリー」と呼ばれながら、量産化の時期が何度も先送りされてきました。

そのため「本当に市販車へ搭載されるのか」と感じている人も少なくないでしょう。

しかし、メルセデスはFactorial製セルを搭載したEQSをすでに公道で走らせ、1,205kmという長距離走行を実現しています。そこへ今回、ProLogiumの最新Gen4セルを優先的に評価できる体制まで加わりました。

つまりメルセデスは一つの技術が完成するのを待っているのではなく、複数の有力技術を実際に試しながら、量産車へ搭載できる全固体電池を選び始めています。

メルセデス自身は全固体電池を含む次世代技術について、10年の終わりまでの量産導入を目標として掲げています。

EVが本当に大きく変わる瞬間は、新しいモーターや巨大なディスプレイが登場した時ではなく、バッテリーそのものが世代交代した時なのかもしれません。

今回のProLogiumとの提携強化は、その転換点が少しずつ現実へ近づいていることを示すニュースと言えそうです。

参考・出典:Carscoops / Mercedes-Benz / ProLogium

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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