ゴードン・マレーが「究極のドライバーズカー」を目指して生み出したGordon Murray Automotive(GMA)T.50。

マクラーレンF1の精神的後継車とも呼ばれるこのスーパーカーが、ほぼ新車と言える状態でオークションに登場します。

今回RM Sotheby’sの「Sealed September」に出品されたのは、2024年式のT.50。新車からの走行距離はわずか62マイル(約100km)で、予想落札価格は420万〜460万ポンドに設定されています。

新車価格を大きく上回る評価となっており、T.50がすでに現代を代表するコレクターズカーのひとつになりつつあることを示しています。

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走行距離はわずか約100km

今回出品されたT.50は、100台限定で生産されたロードカーのうち47番目にあたるシャシーナンバー047です。

2024年に完成してからプロフェッショナルの保管施設で管理されており、RM Sotheby’sによれば、工場でのテストなどを除けばほとんど走行していません。

オドメーターが示す距離はわずか62マイル(約100km)。

さらにEU仕様として製造され、Certificate of Conformity(適合証明書)が付属する一方、一度も登録されていない個体です。

事実上、「新車に限りなく近いT.50」と言っていいでしょう。

世界に1台のカラーリング

この個体をさらに特別なものにしているのが、その仕様です。

ボディカラーには「Harrier」が選択され、インテリアにはLuffield Tanレザーとチャコールカラーのアルカンターラを組み合わせています。

ボディにはサテン仕上げのペイントプロテクションフィルム(PPF)が施工されているため、実際には塗装を保護しながらマットペイントのような質感を演出しています。

エクステリアにはサテンカーボンを採用し、リアビューカメラやウインドウトリム、エアボックスなどにはグロスカーボンが使われています。

派手さで目を引くというよりも、T.50の美しいプロポーションを引き立てる非常に上品な仕様です。

4.0リッター自然吸気V12は12,100rpmまで回る

T.50最大の魅力は、現代のスーパーカーとしては異例とも言えるパワートレインです。

搭載されるのはCosworth(コスワース)が専用開発した3,994ccの自然吸気V型12気筒エンジン。

最高出力670PSを11,000rpmで発生し、最高回転数は驚異の12,100rpmに達します。

そして組み合わされるトランスミッションは、6速MTです。

ターボもハイブリッドシステムもありません。

自然吸気V12、3ペダル、Hパターンのマニュアルトランスミッションという、現在のスーパーカー市場では極めて珍しくなった組み合わせを採用しています。

GMA T.50主要スペック

項目スペック
エンジン3,994cc V型12気筒 自然吸気
エンジン開発Cosworth
最高出力670PS / 11,000rpm
最大トルク479Nm / 8,000rpm
最高回転数12,100rpm
トランスミッション6速MT
駆動方式後輪駆動
ドライウェイト997kg
全長4,352mm
全幅1,850mm
全高1,164mm
ホイールベース2,700mm
乗車定員3名
生産台数100台

特に驚かされるのが997kgという重量です。

現在のハイパフォーマンスカーがハイブリッド化や大型化によって1,500〜2,000kg近くまで重量を増やしている中、T.50は1トンを切っています。

ゴードン・マレーは単純な最高出力や最高速度を競うのではなく、「軽さ」「レスポンス」「ドライバーとの一体感」を徹底的に追求しました。

後ろに見える巨大なファンは飾りではない

T.50を後ろから見ると、中央に巨大なファンが取り付けられていることに気付きます。

直径400mmのこのファンは単なるデザインではありません。

車体下部を流れる空気を積極的にコントロールすることで、グラウンドエフェクトの性能を高めるための重要な空力装置です。

GMAによれば、ファンとアクティブエアロを組み合わせることで、ダウンフォースを最大50%増加させるほか、ドラッグを12.5%低減することが可能とされています。

巨大な固定式リアウイングに頼らず、美しいボディラインと高い空力性能を両立させているのもT.50の特徴です。

マクラーレンF1を現代に蘇らせたようなクルマ

そしてT.50を語るうえで避けて通れないのが、マクラーレンF1との関係です。

マクラーレンF1を設計した人物こそ、ゴードン・マレーです。

T.50もマクラーレンF1と同じように、ドライバーが車体中央に座り、その左右後方に2人の乗員が座る3シーター構造を採用しています。

中央運転席、自然吸気V12、後輪駆動、マニュアルトランスミッション、徹底した軽量化。

スペックだけを見ても、マクラーレンF1の哲学を現代の技術で再構築したクルマであることが分かります。

一方で、T.50は単なるF1の復刻版ではありません。

ゴードン・マレー自身が、F1で得た経験をもとにさらに理想を追求したモデルであり、GMAはT.50を「最もドライバー中心のスーパーカー」と位置付けています。

新車価格から大幅に値上がり

T.50が発表された当時の価格は税別236万ポンドでした。

しかし今回のRM Sotheby’sによる予想価格は420万〜460万ポンド。

単純比較でも、新車時の価格を大幅に上回っています。

しかもT.50の中古市場はすでに動き始めています。

極端に生産台数が少ないことに加え、自然吸気V12+MT+3シーターという構成を今後再び実現することが難しいと考えられるため、コレクターからの注目度は非常に高くなっています。

さらにゴードン・マレーという名前そのものにも大きな価値があります。

現在ではマクラーレンF1が世界で最も価値の高いロードカーのひとつとなっているだけに、「次のマクラーレンF1」を探すコレクターがT.50に注目するのも不思議ではありません。

約9億円でも「安かった」と言われる日が来るのか

今回のT.50は、走行距離約100km、未登録、ワンオーナー、さらに独自仕様という非常に魅力的な条件が揃っています。

420万〜460万ポンドという予想価格だけを見ると途方もない金額ですが、T.50の希少性を考えると、これが将来的に高かったのか安かったのかはまだ分かりません。

マクラーレンF1も、登場した当時から現在のような価格で取引されていたわけではありません。

電動化やハイブリッド化が急速に進む時代に、12,100rpmまで回る自然吸気V12を搭載し、6速MTを介して後輪を駆動する1トン未満の3シータースーパーカー。

同じようなクルマがもう一度作られる可能性は、決して高くないでしょう。

T.50は「速いクルマ」というだけではなく、内燃機関時代のスーパーカーが到達したひとつの完成形として評価される存在なのかもしれません。

今回のオークション結果は、T.50の今後の市場価値を占ううえでも非常に興味深いものになりそうです。

参考・出典:Motor1 / RM Sotheby’s / Gordon Murray Automotive

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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