フォルクスワーゲンが「世界最高効率」のEVを開発。XL1の後継「Mission Efficiency」はCd値0.158を達成

フォルクスワーゲンが、かつて世界を驚かせた超低燃費車「XL1」の思想を現代に蘇らせました。

その名は「Mission Efficiency(ミッション・エフィシェンシー)」。

派手な最高出力や0-100km/h加速を競うのではなく、徹底的に「少ないエネルギーでどこまで走れるか」を追求したEVです。

そして、その数字は驚異的です。

フォルクスワーゲンによれば、Mission EfficiencyはCd値わずか「0.158」を達成。さらに実際の公道を使った約1,278kmの走行テストでは、わずか1回の充電で目的地まで到達しています。

2013年に登場した伝説的なXL1から約13年。

フォルクスワーゲンは再び、「速さ」ではなく「効率」で自動車の限界に挑もうとしています。

目次

伝説のXL1、その思想がEVで復活

Mission Efficiencyを見て、フォルクスワーゲンのXL1を思い出した方もいるのではないでしょうか。

2013年に市販されたXL1は、800ccの2気筒ディーゼルエンジンと電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッドを採用。

カーボンファイバーを多用した軽量ボディや極端に低い車高、覆われたリアホイールなど、燃費向上のためなら常識にとらわれない設計が特徴でした。

その開発を推進したのが、当時フォルクスワーゲングループを率いていたフェルディナント・ピエヒです。

ブガッティ・ヴェイロンを生み出した人物が、一方では「世界で最も燃費の良いクルマ」を追求していたというのも興味深いところです。

Mission Efficiencyは、そのXL1の思想をEV時代へと持ち込んだモデルといえます。

Cd値0.158。空気抵抗を徹底的に削減

Mission Efficiency最大の特徴が、圧倒的な空力性能です。

フォルクスワーゲンが発表したCd値は、なんと「0.158」。

モデルCd値
Volkswagen Mission Efficiency0.158
Volkswagen XL1約0.19
Mercedes-Benz EQS約0.20
Tesla Model 3約0.22〜0.23

Mission Efficiencyでは、単にボディを滑らかにするだけではありません。

ティアドロップ型のボディ形状、覆われたリアホイール、フラットなアンダーボディ、アクティブ式冷却エアフラップ、ボディ表面に組み込まれたドアハンドルなど、あらゆる部分が空気抵抗を減らすために設計されています。

さらにフロント投影面積も2.08平方メートルまで抑えられています。

その効果は高速域になるほど大きく、フォルクスワーゲンによると80km/h以上では、ベースとなるID. Poloに対して消費エネルギーを30%以上削減。

さらに140km/hで走行しても、ID. Poloが100km/hで走行するときと同程度のエネルギーしか必要としないとしています。

EVにとって「巨大なバッテリーを積む」以外にも航続距離を伸ばす方法があることを、非常に分かりやすく示しています。

ID. Poloのモーターとバッテリーを使用

さらに面白いのは、Mission Efficiencyが特殊な専用パワートレインを搭載しているわけではないことです。

基本的な技術は、フォルクスワーゲンの新型「ID. Polo」などに使用されるMEB+プラットフォームをベースとしています。

項目Mission Efficiency
パワートレインシングルモーターEV
駆動方式前輪駆動
最高出力99kW(約135PS)
バッテリー容量54.9kWh(ネット)
プラットフォームMEB+
Cd値0.158
前面投影面積2.08㎡
ボディ2+2クーペ
全長4,775mm
全高1,392mm
ラゲッジ容量481L

つまり、100kWhを超えるような巨大なバッテリーを搭載して航続距離を稼いでいるわけではありません。

比較的コンパクトな54.9kWhのバッテリーから、徹底した空力性能によって驚異的な航続性能を引き出しているのです。

約1,278kmを充電わずか1回で走破

Mission Efficiencyの性能を証明するため、フォルクスワーゲンは実際の公道を使った長距離テストを実施しました。

ルートはドイツ・ヴォルフスブルクにある開発センターから、ポーランドのポズナン、チェコのオロモウツを経由してオーストリア・ウィーンまで。

走行距離は1,278.36kmです。

項目記録
走行距離1,278.36km
平均速度67.72km/h
最高速度138km/h
電費(充電損失除く)6.89kWh/100km
電費(充電損失含む)7.51kWh/100km
途中充電1回
到着時残り航続距離164km

特に注目したいのが6.89kWh/100kmという消費電力量です。

日本で馴染みのある「km/kWh」に換算すると、約14.5km/kWhに相当します。

一般的なEVが概ね5〜8km/kWh程度で走行することを考えると、Mission Efficiencyがいかに異常な効率を実現しているかが分かります。

さらに一定速度68km/h、勾配なし、エアコンなどを停止した理想条件では「6.48kWh/100km」という記録も達成しました。

54.9kWhで800km級の航続距離も

evoによれば、フォルクスワーゲンは条件次第では1回の充電で約500マイル(約805km)を走行できる可能性があるとしています。

重要なのは、これを54.9kWhという比較的小さなバッテリーで実現しようとしていることです。

現在のEVでは、航続距離を延ばすためにバッテリー容量を増やす方法が一般的です。

しかしバッテリーを大型化すると車両重量が増え、その重量を動かすためにさらにエネルギーが必要になるというジレンマがあります。

Mission Efficiencyが提示しているのは、その逆の考え方です。

「より多くの電気を積む」のではなく、「より少ない電気で走る」。

これは今後のEV開発において、非常に重要な方向性になるかもしれません。

ソーラーパネルまで搭載

Mission Efficiencyでは、ルーフとリアウインドウにソーラーセルも搭載されています。

ただし、これによって駆動用バッテリーを大幅に充電するという考えではありません。

ソーラーセルで発電した電力を車両の電装系に使用することで、駆動用バッテリーの負担を少しでも減らす狙いがあります。

徹底的にエネルギーロスを排除するMission Efficiencyらしい装備といえるでしょう。

見た目とは裏腹に意外と実用的

XL1は2人乗りでしたが、Mission Efficiencyは「2+2」の4人乗りです。

リアシートは身長約160cmまでの乗員を想定しているため、大人4人での長距離移動には向かないものの、子どもを乗せるファミリーカーとして考えれば十分現実的です。

さらにラゲッジ容量は481L。

極端な空力性能を追求した実験車でありながら、日常生活でも使用できる実用性を持たせているところが、今回のMission Efficiencyの重要なポイントです。

インテリアについても軽量化が徹底されており、シートは手動調整式。

大型インフォテインメントディスプレイではなくタブレットを使用し、オーディオもBluetoothスピーカーを使用するなど、必要以上の装備を持たない設計となっています。

市販化の可能性も?

現時点でフォルクスワーゲン公式はMission Efficiencyを「Concept vehicle. Not for sale.」としています。

つまり正式な市販モデルではありません。

しかし興味深いことに、完全な研究車両とも言い切れません。

海外メディアAuto Expressの取材に対し、フォルクスワーゲンのプロダクトコミュニケーション責任者Stefan Voswinkel氏は、市販化について現在も検討していることを明らかにしています。

仮に市販化された場合、価格については約5万ユーロがひとつの目安になる可能性も報じられています。

まだ正式決定ではありませんが、XL1が実際に限定生産された過去を考えると、Mission Efficiencyの市販化にも期待したくなります。

「大容量バッテリー競争」へのひとつの回答か

近年のEVは、高出力化と大容量バッテリー化が急速に進んでいます。

600PS、700PSという出力も珍しくなく、100kWhを超える巨大なバッテリーを搭載するモデルも増えました。

しかしMission Efficiencyは、その流れとはまったく逆方向を向いています。

99kW(約135PS)のモーターと54.9kWhのバッテリー。

スペックだけを見れば決して派手ではありません。

それでも空力、軽量化、電力効率を徹底的に追求することで、800km超えの航続距離を狙えるところまで性能を引き上げました。

「EVの航続距離を伸ばすためには、大きなバッテリーが必要なのか?」

Mission Efficiencyは、その問いに対するフォルクスワーゲンなりの回答なのかもしれません。

13年前、XL1は「1リットルの燃料で100kmを走る」という目標から生まれました。

そしてEV時代になった今、フォルクスワーゲンは再び効率という数字で自動車の常識を変えようとしています。

Mission Efficiencyそのものが市販されるのか。

それとも、ここで培われた技術が次世代のIDシリーズへと受け継がれていくのか。

今後の展開に注目です。

参考・出典:evo / Volkswagen / Auto Express

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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