フォルクスワーゲンの電気自動車「ID.4」が、大きな転換点を迎えます。
同社はID.4を大幅に刷新し、新たに「ID. Tiguan(ID. ティグアン)」として展開することを明らかにしました。さらにID. TiguanはID.4だけでなく、クーペSUVのID.5が担ってきたポジションも引き継ぎ、2027年初頭から一部市場で販売が始まる予定です。
一見すると単純な車名変更にも思えますが、今回の動きはそれほど小さな話ではありません。
「ID.3」「ID.4」「ID.5」のように数字でEVを区別してきたフォルクスワーゲンが、PoloやTiguanといった長年育ててきた名前をEVにも使い始めているからです。
これは、フォルクスワーゲンのEV戦略そのものが次の段階へ入ったことを象徴する動きと言えそうです。
ID.4は「ID. Tiguan」へ

現在販売されているID.4は、2020年に登場したフォルクスワーゲンの主力電動SUVです。
しかし次のモデルチェンジでは「ID.4」という名前を継続するのではなく、ID. Tiguanへと生まれ変わります。
しかも変更されるのは名前だけではありません。
エクステリアは大幅に再設計され、インテリアについても操作系を含めた大規模なアップデートが行われるとされています。Motor1によれば、物理ボタンが増える方向で改良される見込みで、近年のフォルクスワーゲンが進めている「タッチ操作への過度な依存を見直す」という流れも反映されそうです。
プラットフォームについては、現在のMEBを発展させたMEB+が採用されると報じられており、モーターや効率、充電性能などについても進化が期待されています。
つまりID. Tiguanは、単純にID.4のエンブレムを付け替えただけのモデルではなく、大幅な刷新と同時に新しい名称へ移行することになります。
なぜ「ID.5」までなくなるのか

今回興味深いのは、ID. TiguanがID.4だけではなくID.5の役割も引き継ぐ点です。
ID.4が一般的なSUVスタイルなのに対し、ID.5はルーフ後端をなだらかに落としたクーペSUVとして展開されてきました。
しかし今後は、この2モデルをID. Tiguanへ集約することでラインアップを整理することになります。
電気自動車市場が急速な成長だけを前提とできる段階から、価格や収益性、商品構成まで含めて慎重に見直す段階へ移るなか、似たサイズのEVを複数展開するよりも、知名度の高い「Tiguan」というブランドへ集約する判断には合理性があります。
そして何より、Tiguanという名前そのものが非常に強力です。
Tiguanは累計830万台以上を生産した巨大ブランド
フォルクスワーゲンによれば、Tiguanはこれまでに830万台以上が生産されています。
Thomas Schäfer CEOも、この数字についてTiguanという名称に結びついた「強さと信頼」を示すものだと説明しています。
ここに今回の名称変更の狙いが見えてきます。
ID.4という名前を知らない人でも、「Tiguan」であればフォルクスワーゲンのSUVだと理解できる人は少なくありません。
EVだからまったく新しい名前を付けるのではなく、すでに顧客から認知されているブランドを電動化していく。その方が「どのクラスの、どのようなクルマなのか」を直感的に伝えやすくなります。
フォルクスワーゲン自身も、既存の名称を採用することで顧客に明確な方向性を示す狙いがあると説明しています。
「ID.+数字」の時代が終わり始めている
フォルクスワーゲンはEV専用ブランドとして「ID.」を立ち上げ、ID.3、ID.4、ID.5、ID.7など数字を使った名称を展開してきました。
当時はEVを内燃機関車とは異なる新世代の商品として明確に区別する意味がありましたが、EVがラインアップの一部として定着していくのであれば、いつまでも「EVだけ別ブランド」のように扱う必要性は薄れていきます。
実際、フォルクスワーゲンはすでに「ID. Polo」「ID. Cross」を発表しており、今回のID. Tiguanは既存の有名モデル名をEVへ移植する3例目となります。
つまり今後は、
Polo → ID. Polo
T-Cross → ID. Cross
Tiguan → ID. Tiguan
というように、内燃機関車とEVの関係が名称だけでも理解しやすくなります。
将来的にはGolfについても同様の考え方が採用される可能性があり、「ID.」は残しながら、その後ろに数字ではなく既存のモデル名を組み合わせることが、フォルクスワーゲンEVの新しい基本形になっていくのかもしれません。
ガソリン/ハイブリッドのTiguanはなくならない
ここで注意したいのが、ID. Tiguanの登場によって現在のTiguanが廃止されるわけではないことです。
フォルクスワーゲンは、内燃機関およびハイブリッドパワートレインを搭載するTiguanを、ID. Tiguanと並行して販売するとしています。
そのため今後は、
「Tiguan」=内燃機関/ハイブリッド
「ID. Tiguan」=BEV
という関係になります。
EVへの移行時期が地域によって大きく異なる現在、この方法ならTiguanというブランドを維持しながら、それぞれの市場や顧客に適したパワートレインを提供できます。
「EVかエンジン車か」ではなく、「Tiguanを選び、その中からパワートレインを選ぶ」という考え方へ近づいているとも言えるでしょう。
ID. Tiguanは2027年初頭に登場予定
新型ID. Tiguanのワールドプレミアは2026年10月初旬に予定されており、一部市場では2027年初頭から販売が開始される予定です。
現時点ではカモフラージュされた車両が公開されている段階で、バッテリー容量や航続距離、モーター出力、充電性能などの詳細なスペックは正式発表されていません。
ただしID.4から大幅な変更が加えられることは明らかになっており、単なるフェイスリフト以上の存在として登場する可能性があります。
EVを「特別なクルマ」にしないフォルクスワーゲン
ID. Tiguanへの名称変更で最も興味深いのは、フォルクスワーゲンがEVを特別扱いしなくなりつつあることではないでしょうか。
EV普及の初期段階では、「これは新しい電気自動車です」と明確に伝えるために専用ブランドや未来的な車名を採用する意味がありました。
しかしEVが一般的な選択肢になれば、ユーザーが知りたいのは「これはEVなのか」だけではなく、「どのクラスで、どのような性格のクルマなのか」ということになります。
その意味で、世界的に認知されたTiguanの名前を使うことは非常に分かりやすい戦略です。
ID.4というEVを売るのではなく、「電気で走るTiguan」を売る。
わずかな言葉の違いですが、そこにはフォルクスワーゲンがEVをどのように市場へ定着させようとしているのか、その考え方の変化が表れているように感じます。
2026年10月に予定される正式発表では、デザインだけでなく航続距離や充電性能、そしてID.4からどこまで進化したのかにも注目です。
参考・出典:Motor1 / Volkswagen




