映画『ブリット』や『栄光のル・マン』で知られ、自身も熱狂的なクルマ好きだった俳優スティーブ・マックイーン。その彼が新車で購入した極めて希少なフェラーリが、ついにオークションへ姿を現します。
出品されるのは1967年式「フェラーリ 275 GTB/4*S NART Spider」。生産台数はわずか10台で、今回の個体はその6台目にあたるシャシーナンバー「10453」です。
予想落札価格は1,500万〜2,000万ドル、日本円にして約22億〜30億円規模。しかも、この個体が公開オークションに出品されるのは今回が初めてです。
わずか10台の「NART Spider」

275 GTB/4*S NART Spiderは、フェラーリの北米輸入代理店を務めたルイジ・キネッティの要望によって誕生した特別なオープンモデルです。
「NART」とは、キネッティが設立したNorth American Racing Team(ノース・アメリカン・レーシング・チーム)の略称。275 GTB/4をベースにスカリエッティがオープンボディを仕立てたモデルで、最終的に生産されたのはわずか10台でした。
今回出品されるシャシー10453は、その10台のうち6台目であり、さらに新車時に「Blu Sera(イブニングブルー)」で仕上げられたわずか2台のうちの1台です。
スティーブ・マックイーンが新車で購入

この個体が特別なのは、単に希少なNART Spiderだからではありません。
1967年9月に完成したシャシー10453は、ルイジ・キネッティ・モーターズを経由し、ロサンゼルスのHollywood Sports Carsからスティーブ・マックイーン本人へ新車で販売されました。
マックイーンは購入後すぐに自分好みの仕様へ変更し、ボディをより濃いメタリックブルーへ塗り替えたほか、シートも特徴的なステッチを持つ仕様へ張り替えています。
一般的なクラシックカーでは、こうしたオリジナルからの変更は価値を下げる要因にもなります。しかし、このクルマの場合は「スティーブ・マックイーン本人が施した仕様変更」という歴史そのものが、むしろ唯一無二の価値を生み出しています。
事故も経験した「マックイーンのフェラーリ」

華やかなコレクターズカーとして保存され続けてきただけの個体でもありません。
マックイーンの所有中にはパシフィック・コースト・ハイウェイで事故を経験し、その後、著名なボディ職人ジュニア・コンウェイによって修復されました。
1971年までにはJ. David Kopfのコレクションへ移り、さらに1986年には現在のオーナーのもとへ。その後約40年間にわたって同じコレクションで大切に保管されてきました。
注目したいのは、大規模なレストアによって新品同様に戻されたのではなく、「保存」を重視されてきたことです。
現在もマッチングナンバーのエンジンとトランスアクスル、オリジナルのスカリエッティ製ボディ、そしてマックイーン時代の特徴的なディテールが残されています。
3.3リッターV12、最高出力300PS

275 GTB/4*S NART Spiderは、コレクターとしての価値だけでなく、1960年代のフェラーリを代表する高性能モデルでもあります。
| 項目 | スペック |
|---|---|
| モデル | Ferrari 275 GTB/4*S NART Spider |
| 年式 | 1967年 |
| エンジン | 3.3L V型12気筒 |
| 排気量 | 約3,286cc |
| 最高出力 | 約300PS |
| トランスミッション | 5速MT |
| 駆動方式 | FR |
| 生産台数 | 10台 |
| シャシーナンバー | 10453 |
| オリジナルカラー | Blu Sera |
| 予想落札価格 | 1,500万〜2,000万ドル |
4本のカムシャフトを採用したV12エンジンに加え、リアに5速トランスアクスルを配置するなど、当時としては非常に高度なメカニズムを備えていました。
過去にはNART Spiderが2,750万ドルで落札
275 GTB/4*S NART Spiderの価値を考えるうえで興味深いのが、過去のオークション記録です。
2013年には別のNART Spider、シャシー10709がRM Auctionsのモントレー・オークションに登場し、2,750万ドルで落札されています。
今回のマックイーン所有車に設定された予想落札価格は1,500万〜2,000万ドルのため、金額だけを見ればこの記録を下回ります。
しかし、わずか10台という希少性に加え、スティーブ・マックイーンが新車で購入し、本人の好みに合わせて手を加えた個体であること、さらに約40年間同じコレクションに収められてきた来歴を考えると、実際の入札がどこまで伸びるのか注目されます。
初の公開オークションはニューヨークで開催
シャシー10453が公開オークションに登場するのは今回が初めてです。
出品されるのはGooding Christie’sが2026年11月20日〜21日にニューヨークのJavits Centerで開催する「Rétromobile New York Auctions」。
フェラーリ275 GTB/4*S NART Spiderという存在だけでも特別ですが、そこにスティーブ・マックイーンという20世紀を代表する映画スターのストーリーが重なります。
希少性、オリジナリティ、著名なオーナー、そして約60年にわたる歴史。そのすべてを持つこの一台が、最終的にどのような価格で新たなオーナーのもとへ渡るのか、11月のオークションは世界中のコレクターから大きな注目を集めそうです。
参考・出典:Motor1 / Gooding Christie’s / RM Sotheby’s




