アメリカのハイパフォーマンスカーメーカー、Saleen(サリーン)が、長年開発を続けてきたミッドシップスポーツカー「S1」の予約受付を開始しました。
Saleenと聞いて、強烈なV8エンジンを搭載した「S7」や、フォード・マスタングをベースとしたコンプリートカーを思い浮かべる人も多いでしょう。しかし今回のS1は、大排気量エンジンと圧倒的な最高出力で勝負する従来型のアメリカンスーパーカーとは方向性が異なり、軽量な車体と450PSのターボエンジンを組み合わせた、よりコンパクトなドライバーズカーとして開発されています。
そして何より注目したいのは、このS1が決して「突然登場した新型車」ではないことです。原型が披露されたのは2017年であり、それから約9年を経て、ようやく一般ユーザーが予約できる段階までたどり着きました。
Saleen S1、約9年越しで予約受付を開始
Saleen S1が初めて公の場に姿を現したのは2017年のロサンゼルス・オートショーでした。
当初からSaleenは、S1をS7に続く自社開発スポーツカーとして位置付けており、アルミニウム製シャシーとカーボンファイバー製ボディを組み合わせることで、大排気量エンジンに頼らない軽量なミッドシップスポーツカーを目指していました。
ところが、その後の計画は思うようには進まず、市販化までには長い時間を要することになります。
それでもSaleenはS1の開発を完全に断念したわけではなく、レース活動などを通じて熟成を継続。2023年には創業者のスティーブ・サリーン自身がS1をドライブしてレースに出場し、GT4仕様のマスタングを相手に勝利するとともに、その日の最速ラップも記録しています。
そして2026年、ようやくS1 Streetの予約受付がスタートしました。
450PSながら車重は約1.2トン

Saleenが現在公表しているS1 Streetの最高出力は450hpで、日本で一般的なPS表記に換算すると約456PSに相当します。
最大トルクは425lb-ft(約576Nm)で、0-60mph(約96km/h)加速は3.2秒、最高速度は171mph(約275km/h)とされています。
| 項目 | Saleen S1 Street |
|---|---|
| レイアウト | ミッドシップ |
| 最高出力 | 450hp(約456PS) |
| 最大トルク | 425lb-ft(約576Nm) |
| 0-60mph加速 | 3.2秒 |
| 最高速度 | 171mph(約275km/h) |
| 車重 | 約2,685lb(約1,218kg) |
| 価格 | 16万ドル〜(約2,535万円〜) |
| 予約金 | 1,000ドル(約15万8,000円) |
※日本円は2026年10月7日時点、1ドル=約158.4円で換算。
現代のスーパーカーとして考えると450hpという数字そのものは驚異的ではありませんが、S1最大の武器はパワーではなく軽さです。
従来公表されている仕様では、アルミニウム製シャシーにカーボンファイバー製ボディを組み合わせ、車重はわずか約1,218kg。仮に市販仕様でもこの重量が維持されるのであれば、現在の高性能スポーツカーとしてはかなり軽量な部類に入ります。
つまりS1は、700PS、800PSという数字を追いかけるのではなく、450PSを軽い車体で最大限に生かすという、現代ではむしろ珍しくなりつつある設計思想を持ったスポーツカーなのです。
エンジンについてはまだ不透明な部分も

興味深いのがパワートレインです。
2017年に発表された当初のS1には、Saleenが設計した2.5リッター直列4気筒ターボエンジンが搭載され、最高出力450hp、最大トルク350lb-ftを発生すると説明されていました。
今回発表された最高出力は同じ450hpですが、最大トルクは425lb-ftまで大幅に増加しています。
一方、Saleenが現在公開しているS1のページでは主要性能こそ明らかになっているものの、初期計画と同じ2.5リッターエンジンが市販車にも採用されるのかなど、パワートレインの詳細にはまだ不透明な部分が残されています。
約9年という開発期間を考えれば、その間にエンジンや制御システムが変更されていたとしても不思議ではなく、市販仕様の詳細発表は今後の大きな注目点になりそうです。
サーキット専用「S1 Race」も用意
S1には公道仕様のStreetだけでなく、サーキット走行を前提とした「S1 Race」も設定されています。
こちらも最高出力450hp、最大トルク425lb-ftという基本的な数値はStreetと共通ですが、0-60mph加速は2.9秒まで短縮され、最高速度も180mph(約290km/h)へ引き上げられています。
価格は25万ドル(約3,960万円)からで、予約金は2,000ドル(約31万7,000円)。Street、Raceともに予約金は全額返金可能とされています。
Saleenによれば、S1の開発には同社がこれまで参戦してきた383レース、119勝、13回のチャンピオン獲得から得たノウハウが投入されており、空力開発だけでなく、クラッシュテストや排出ガス、ダンパーセッティングなども含めて開発が進められています。
S7の後継車というより「軽量ドライバーズカー」
Saleenというブランドを語るうえで避けられない存在が「S7」です。
2000年代を代表するアメリカンスーパーカーのひとつであり、巨大な7.0リッターV8をミッドシップに搭載したS7は、Saleenという名前を世界的に知らしめました。
そのためS1にも「S7の後継」というイメージを抱きたくなりますが、実際には両車の性格は大きく異なります。
S7が大排気量V8と圧倒的なパフォーマンスによってフェラーリやランボルギーニなどと真正面から戦うスーパーカーだったのに対し、S1はより小さく軽く、必要十分なパワーを使い切ることに重点を置いたスポーツカーです。
現在の市場で考えるなら、1000PS級ハイパーカーよりも、マクラーレン Arturaやロータス Emiraなどに近い思想を持ったモデルと見るほうが自然でしょう。
16万ドルという価格は安いのか
S1 Streetの価格は16万ドル、日本円に換算すると約2,535万円からです。
決して安いクルマではありませんが、カーボンファイバー製ボディとアルミニウムシャシーを採用した少量生産ミッドシップスポーツカーという成り立ちを考えると、価格そのものに一定の説得力はあります。
ただし、約9年前に構想されたS1を取り巻く市場環境は大きく変わりました。
現在ではC8世代のシボレー・コルベットをはじめ、非常に高性能なミッドシップスポーツカーが存在し、さらに電動化によって0-100km/h加速3秒前後という性能自体も以前ほど特別ではありません。
だからこそS1が成功するためには、「450PSで3.2秒」という数字だけではなく、約1.2トンという軽量ボディによってどれほど濃密なドライビング体験を提供できるのかが重要になるでしょう。
本当に市販されるのかが最大の注目点
今回の予約開始は、長年S1を待っていたファンにとって大きな前進です。
しかし、現時点では最初の顧客向け車両がいつ納車されるのかについて明確なスケジュールは示されておらず、予約金が全額返金可能となっている点も含め、「予約開始=量産開始」と考えるのはまだ早いでしょう。
それでも、2017年の初公開から約9年を経てもSaleenがS1を諦めず、正式な価格と性能を掲げて予約受付まで進めたことには大きな意味があります。
大排気量V8でも1000PS級のハイブリッドでもなく、軽量な車体に450PSのエンジンを積み、ドライバーが性能を使い切ることを重視するS1。その思想が実際の市販車としてどこまで完成されているのか、そして本当に顧客のもとへ届けられるのかが、これからの最大の注目点になりそうです。
参考・出典:CarBuzz / Saleen Automotive / Car and Driver




