世界一細い車と幅広い車を同じ男が製作。フォード・フェスティバが常識外れの2台に変貌

道路を走る黄色いコンパクトカー。しかし、その姿を正面から見ると、何かがおかしいことに気づきます。

一方は車幅が極端に狭く、まるで自動車を左右から押し潰したような姿。もう一方は車幅が約3メートルにも達し、映像を横方向に引き伸ばしたかのような異様なプロポーションをしています。

驚くべきことに、この2台はどちらも実在し、実際に公道を走行しています。

製作したのは、アメリカのYouTubeチャンネル「Prop Department」を運営するTyler Fever氏。1988年式フォード・フェスティバを極限まで細くするプロジェクトを成功させた後、今度は正反対の発想で、世界一幅広い公道走行可能な車を目指しました。

なぜ同じコンパクトカーから、これほど極端な2台が誕生したのでしょうか。その製作過程を追うと、単なる奇抜な改造では片づけられない、意外なほど本格的な技術が見えてきます。

目次

ベースは日本のマツダが開発したフォード・フェスティバ

今回の2台に共通するのは、フォード・フェスティバという小型ハッチバックをベースにしていることです。

初代フェスティバは1986年に登場したコンパクトカーで、フォードブランドで販売されながら、実際の開発には日本のマツダが深く関わっていました。海外では起亜が生産したモデルも存在し、地域によって異なるブランド名で販売された歴史を持っています。

全長約3.5メートル、全幅約1.6メートルという小さなボディは、当時の実用的なエントリーカーとして合理的なものでしたが、Fever氏はその小ささに目をつけ、まったく異なる方向性の2つのプロジェクトを始動させました。

まずは車体中央を取り除いて限界まで細くし、その後、反対に車体中央へ大きな空間を追加することで、幅約3メートルの巨大なフェスティバを製作したのです。

第1弾は世界一細い車。ボディを切断し、エンジンまで撤去

2026年3月に公開された「I Built the THINNEST Street Legal Car」では、1988年式フォード・フェスティバを使い、極端に幅の狭い自動車を製作する様子が紹介されました。

製作の第一段階では、内装や機械部品を取り外してボディを裸の状態にした後、レーザーカッターを使って車体を縦方向に切断。中央部分を大幅に取り除き、残った左右のボディを再び接合するという、大胆な方法が採用されています。

その結果、完成した車両は元のフェスティバのおよそ半分の幅となり、正面から見るとオートバイに屋根を取り付けたような姿へと変貌しました。

しかし、車幅を極端に狭くしたことで、オリジナルのエンジンを搭載するスペースが失われてしまいます。

そこでFever氏が選択したのが、電動バイクの駆動システムを移植するEV化でした。

約20hpの電気モーターを搭載。細すぎる室内にも工夫

極細フェスティバには、電動オフロードバイク由来のモーターとバッテリーが移植され、約20hp(約20PS)の出力を持つ電気自動車として生まれ変わりました。

さらに、狭くなった車体に合わせてリアアクスルやブレーキ系統を作り直し、室内のペダル配置も変更。通常の自動車のように足元へ十分なスペースを確保できないため、ブレーキ操作には特殊なレバー機構が採用されています。

ボディの接合にはレーザー溶接が用いられ、ヘッドライト周辺やダッシュボードの一部には3Dプリンターで製作した部品を使用するなど、外観の面白さだけでなく、実際に走らせるための技術的な工夫が随所に盛り込まれました。

完成後はアメリカ・テネシー州ナッシュビルの街中を走行し、道行く人々を驚かせています。

なお、「世界一細い」という表現は製作者の掲げた目標であり、公式な世界記録として認定されたことを示すものではありません。

第2弾は正反対。車幅3メートルの巨大フェスティバが誕生

極細フェスティバの完成から約半年後、Fever氏が新たに公開したのは「I Built the WIDEST Street Legal Car」という動画でした。

今度の目標は、同じフォード・フェスティバをベースに、世界一幅広い公道走行可能な自動車を製作することです。

製作には3台のドナー車両が用意され、そのうちの1台を中央から切断。左右のボディを約1.5メートル引き離し、空いた部分に新たなフレームや金属パネルを組み込むことで、最終的に10フィート、約3,048mmという車幅を実現しました。

これは一般的な乗用車の約2倍に相当する幅であり、ランボルギーニやフェラーリのスーパーカーと比較しても、圧倒的に幅広い寸法です。

さらに驚かされるのは、車体の横幅だけでなく、駆動系まで大幅に作り直されていることです。

オリジナルのエンジンは片側へ寄せて搭載され、反対側の車輪へ動力を伝えるために専用のドライブシャフトを製作。延長されたルーフやフロアも補強されており、外観だけを広げた模型ではなく、実際に走行できる自動車として完成しています。

ハンドルが2つ、カップホルダーは14個。巨大化した室内

幅広フェスティバの室内には、通常の自動車では考えられない装備が並んでいます。

特に目を引くのが、横方向に並べられた2つのステアリングホイールです。両方のハンドルは連動する仕組みとなっており、巨大な車幅を生かした独特の運転体験を実現しています。

ただし、アクセルやブレーキなどのペダル類は片側に集約されているため、2人がそれぞれ独立して車両を操作できるわけではありません。

また、極端に長くなったダッシュボードには14個ものカップホルダーが設置され、エンジンルームには家庭用エアコンまで搭載。補助電源装置を使用して稼働させるという、遊び心に満ちた構成となっています。

本来、コンパクトカーは限られたスペースを効率よく使うために設計されますが、このフェスティバはその思想を完全に逆転させ、広すぎる空間をどのように使うかという、まったく別の課題に挑戦した車両といえるでしょう。

極細と超ワイド。2台のフェスティバを比較

同じ車種をベースにしながら、まったく異なる姿となった2台の特徴を整理すると、その対照的な設計思想がよく分かります。

項目極細フェスティバ超ワイドフェスティバ
公開時期2026年3月2026年秋
ベース車両1988年式フェスティバフェスティバ
車幅純正のおよそ半分約3,048mm
改造方法車体中央を切除車体中央を拡張
動力源電気モーターガソリンエンジン
最高出力約20PS非公表
ステアリング1基2基
特徴極端な小型化・EV化超ワイドボディ・4席横並び
公道走行実施済み特別許可を取得し実施

※数値は公開情報に基づく概数であり、極細モデルの正確な完成車幅など、一部の詳細スペックは確認されていません。

車幅3メートルの自動車は日本でも走れるのか

2台ともアメリカでは公道走行を実現していますが、日本で同じことができるかというと、話は簡単ではありません。

日本の道路運送車両の保安基準では、一般的な自動車の幅は原則として2.5メートル以下と定められています。そのため、約3.05メートルの超ワイドフェスティバは、通常の乗用車として登録することが困難です。

アメリカでも一般的な車幅制限を超えるため、Fever氏は特別な通行許可や商用保険を取得し、公道走行を実現しました。

一方、極細フェスティバは車幅そのものよりも、大幅な構造変更に伴う安全性や保安基準への適合が重要になります。車体を切断・接合したうえで駆動方式まで変更しているため、日本で登録を目指す場合には、車体強度や操縦安定性、灯火類などについて厳格な確認が必要になるでしょう。

いずれも、アメリカで走行できたことが、そのまま日本での登録や走行を保証するものではありません。

合理性の対極にある2台が、自動車の面白さを教えてくれる

世界中の自動車メーカーが燃費や電費、空力性能、衝突安全性を追求するなか、今回の2台は、そうした合理性とはまったく異なる価値観から生まれました。

極細フェスティバは、どこまで車幅を削れるのかという疑問から生まれ、超ワイドフェスティバは、反対にどこまで広げられるのかという好奇心を形にしたものです。

いずれも実用性に優れているとは言い難く、日常生活で便利に使える自動車ではありません。しかし、単なるジョークで終わらせず、レーザー加工や3Dプリンター、駆動系の再設計といった技術を駆使して、実際に走行できる状態まで仕上げたことには大きな意味があります。

特に興味深いのは、2台とも高性能なスポーツカーではなく、日本のマツダとも関係の深い、ごく普通のコンパクトカーから生まれたという点でしょう。

自動車の魅力は、速さや豪華さ、価格だけで決まるものではありません。

誰も考えなかった発想を現実の車両として走らせる。そんな純粋な挑戦こそが、クルマという存在の面白さを改めて教えてくれるのではないでしょうか。

参考・出典:Prop Department / Ford Authority / Popular Science / Thomasnet / The Autopian / Gadget Gate

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

目次