クロアチアのハイパーカーメーカー、リマック(Rimac)が、自動車業界の枠を超えた新たな事業領域へと踏み出しました。
2026年10月7日、リマックの技術開発部門であるRimac Technologyは、AIコンピューティングインフラを手掛けるECOBLOXとの共同開発契約を発表しました。その目的は、電動ハイパーカーの開発で培った高性能バッテリーと電力制御技術を、AIデータセンターに応用することです。
世界中で生成AIの利用が拡大するなか、膨大な演算処理を担うデータセンターでは電力供給と冷却能力の確保が大きな課題となっています。そこでリマックが着目したのが、極めて高い出力密度と信頼性を求められるEV技術との共通点でした。
かつて自動車の常識を塗り替えるために開発された技術が、今度はAI社会の基盤を支えようとしています。
リマックとは何者か、ハイパーカーから世界的な技術企業へ

リマックは、クロアチアの起業家マテ・リマックが創業した企業であり、電動ハイパーカー「Nevera(ネヴェーラ)」によって世界的な知名度を獲得しました。
ネヴェーラは4基の電気モーターを搭載し、合計1,914PSという圧倒的な最高出力を実現したモデルです。さらに高性能版のNevera Rでは最高出力を2,107PSまで引き上げるなど、EVの性能限界を追求し続けています。
しかし、リマックの事業は高額なハイパーカーの製造だけではありません。
同社はバッテリーシステム、電動パワートレイン、電子制御技術の開発・供給も手掛けており、Rimac Technologyを通じて自動車メーカー向けの技術事業を拡大しています。
つまり、ハイパーカーはリマックの技術力を象徴する存在である一方、その技術を他社や異業種へ展開することも、同社の重要な事業戦略なのです。
なぜAIデータセンターにEVのバッテリー技術が必要なのか

AIデータセンターでは、膨大な数のGPUやサーバーが大量の電力を消費します。特に高度なAIモデルの学習や推論では、高密度な計算設備を安定して稼働させる必要があり、電源設備への要求も厳しくなっています。
ここで重要になるのが、EVのバッテリー開発と共通する技術です。
高性能EVでは、限られた搭載スペースに大きなエネルギーを蓄えながら、急激な出力変動に対応し、発熱を適切に管理する必要があります。一方、AIデータセンターでも、限られた空間に高密度の電力設備を配置し、安定性と安全性を確保しなければなりません。
リマックが持つ高電圧システムの設計技術、バッテリーの温度管理、安全制御といったノウハウは、こうした要求に応用できる可能性があります。
ただし、AIデータセンターに搭載するバッテリーが、そのまま施設全体の電力を賄うわけではありません。主な役割の一つは、停電や電力供給の乱れが発生した際に、重要な演算設備を停止させないためのバックアップ電源として機能することです。
自動車では加速性能を支える技術が、データセンターでは演算処理の継続性を守る技術へと姿を変えることになります。
リマックの「UNI」バッテリーがAIインフラの中核に
今回の共同開発では、Rimac Technologyが開発した「UNI」バッテリーモジュールが採用されます。
UNIは、自動車分野で求められる厳格な品質基準を背景に開発されたバッテリープラットフォームであり、高いエネルギー密度とコンパクトな構造に加えて、安全性や熱管理性能を重視している点が特徴です。
さらに、バッテリーマネジメントシステム(BMS)によって状態をリアルタイムで監視し、その情報をECOBLOXのデータセンター管理システムへ送信する仕組みも導入されます。
これにより、バッテリーの状態を施設全体の電力設備や冷却システムと連携させながら管理できるようになります。
また、AI向け電源システムでは400Vおよび800Vの直流電源アーキテクチャへの移行が進められており、高電圧技術を長年研究してきたリマックにとっては、その経験を活用できる分野といえます。
共同開発するシステムの概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開発企業 | Rimac Technology / ECOBLOX |
| 開発対象 | モジュラー型AIデータセンター |
| バッテリー | Rimac Technology UNI |
| 電力技術 | 高電圧電力制御・電力変換 |
| 電源アーキテクチャ | 400V / 800V DCへの対応を視野 |
| 管理システム | BMSとデータセンター管理システムの連携 |
| 冷却技術 | 空冷・液冷システム |
| 初号設備の設置予定 | 2026年11月 |
| 設置場所 | クロアチア・リマックキャンパス |
NVIDIAとのつながりも、AI市場への参入が持つ意味
今回の提携で興味深いのは、ECOBLOXがNVIDIA Preferred Partnerであるという点です。
ECOBLOXは、高密度GPUシステムの統合からAIデータセンターの設計、設置、運用までを手掛ける企業であり、リマックのバッテリー技術と組み合わせることで、AI演算設備に必要な電源・冷却・管理機能を一体化したシステムの構築を目指しています。
ただし、今回発表されたのはリマックとECOBLOXの共同開発契約であり、NVIDIAがリマックと直接提携したという発表ではありません。
それでも、AI半導体の需要拡大が自動車関連企業に新たな事業機会をもたらしていることは注目に値します。
これまでAI市場の成長といえばGPUや半導体メーカーに関心が集まりがちでしたが、実際には演算設備を稼働させる電源、蓄電、冷却技術も欠かせません。
リマックのような高性能EV技術を持つ企業が、その周辺インフラを担う可能性が生まれているのです。
2026年11月には最初のデータセンターが完成予定
両社は今回の技術を活用した最初のモジュラー型データセンターを、2026年11月にクロアチアのリマックキャンパスへ設置する計画です。
この施設は実際のシステムを稼働させる実証設備として活用されるほか、顧客や事業パートナーに向けた技術展示の役割も担います。
モジュラー型データセンターは、電源設備や冷却設備、演算機器をあらかじめ統合した構造を採用することで、従来型の施設と比較して導入期間の短縮や拡張性の向上を狙うものです。
ECOBLOXは、条件が整った場合に6〜8か月でAIコンピューティングインフラを展開できるとしており、今回の共同開発も、こうした迅速な設備導入を支える取り組みの一つと位置付けられます。
もっとも、現段階では商用展開の規模や受注額、収益見通しなどは公表されておらず、11月の実証設備がどの程度の性能と信頼性を示すかが、今後の事業拡大を判断する重要な材料になるでしょう。
ハイパーカーだけではない、リマックが目指す未来
今回のニュースを自動車業界の視点から見ると、リマックが単なるハイパーカーメーカーではなく、高性能電動化技術を軸とした総合技術企業へと成長しようとしていることが分かります。
世界最高峰のハイパーカーを開発するには、膨大な研究開発費と高度な専門技術が必要ですが、その成果を限られた台数の高級車だけで回収することは容易ではありません。
一方、同じ技術を自動車メーカー向けの部品供給や産業用蓄電システム、さらにはAIインフラへ展開できれば、研究開発投資を複数の市場で活用することが可能になります。
もちろん、自動車とデータセンターでは使用環境や電力負荷の特性が異なるため、車載技術をそのまま転用するだけで成功するわけではありません。それでも、極限の性能を追求してきた経験が、異なる産業で競争力を生む可能性は十分にあります。
かつてハイパーカーは、メーカーの技術力やブランド価値を示す象徴的な存在でした。しかしリマックは、その開発成果そのものを新たな収益源へと変えようとしています。
世界最速級のEVを走らせるために磨かれた技術が、今度は世界中のAIを動かすために使われる。
今回の提携は、自動車産業とAI産業の境界が、私たちの想像以上の速さで変化していることを示す出来事といえるでしょう。
参考・出典:Rimac Technology / Rimac Newsroom / Autoblog / Renewable Energy Magazine




