自動車業界で「Software Defined Vehicle(SDV)」という言葉が定着し始めたばかりですが、BMWは早くもその先を見据えています。
BMW Groupは2026年9月30日に開催したCapital Market Day 2026で、今後の車両開発や企業運営に人工知能(AI)を本格的に組み込み、「AI Defined Vehicle(AI定義型車両)」へと発展させていく方針を明らかにしました。
しかし、今回の発表で注目すべきなのはクルマの進化だけではありません。BMWはAIを開発、調達、生産、アフターセールスなど幅広い領域に導入すると同時に、組織そのものも大幅にスリム化し、2027年半ばまでに部門数とそれに関連する管理職ポストを20%削減する計画です。
つまりBMWは、AIを新しい装備として利用するのではなく、クルマづくりから会社の意思決定までを変える技術として位置付けています。
「Software Defined」から「AI Defined」へ

これまで自動車メーカーが力を入れてきたのがSoftware Defined Vehicle、いわゆるSDVです。
従来の自動車では、それぞれのECUやハードウェアが特定の機能を担当していましたが、SDVではソフトウェアによって車両の機能を統合的に制御し、購入後でもアップデートによって機能を追加・改善できるようになります。
BMWではNeue Klasse(ノイエ・クラッセ)から採用する新しいゾーン型の電気・電子アーキテクチャを今後幅広い車種へ展開し、システムの複雑さを抑えながら、新機能をより迅速にユーザーへ提供できる環境を整えていきます。
そして、その次にBMWが掲げるのが「AI Defined Vehicle」です。
BMWによれば、AI Defined Vehicleでは個々の機能にAIを使用するだけではなく、運転支援、インフォテインメント、車両の基本機能、快適装備など、車内のさまざまなシステムが状況に応じて連携し、車両全体としてより直感的に動作することを目指します。
言い換えれば、「AIを搭載したクルマ」ではなく、AIが車両全体を横断的につなぎ、ユーザーの状況に合わせてクルマそのものが動く時代をBMWは描いているのです。
AIはクルマだけでなく「クルマの作り方」も変える
さらに興味深いのは、AIの活用範囲が完成車だけにとどまらないことです。
BMWはすでに生産現場などでAIを活用していますが、今後はより高度なAIエージェントを導入し、開発プロセス全体を支援できる仕組みへと発展させる方針です。
Autoblogによれば、その対象は初期の技術要件から仮想走行試験、クラッシュテスト、さらにはリリースに至るまで広がる可能性があり、最終的な承認には人間が関与するものの、AIが開発工程のかなり広い範囲を支える構想となっています。
これは自動車開発のスピードを大きく変える可能性があります。
近年、中国メーカーは非常に短いサイクルで新型車や新技術を投入しており、従来型の長い開発期間を前提とした欧州メーカーにとって、開発速度の差は無視できない問題になっています。
BMWがAIによる開発効率化を急ぐ背景には、単なるコスト削減だけではなく、こうした競争環境の変化に対応する狙いもあると考えられます。
AI導入と同時に「管理職20%削減」
一方、AIによる効率化には人員面での大きな変化も伴います。
BMW Groupは2026年7月の段階ですでに従業員代表組織であるWorks Council(事業所委員会)と人員構造の調整について合意しており、希望退職制度を導入するとともに、組織と意思決定プロセスを大幅に簡素化します。
具体的には、2027年半ばまでに部門数と関連する管理職ポストを20%削減し、その下の組織階層についても同程度の縮小を進める計画です。
Reutersは、ドイツ国内を中心に約8,000人規模の人員削減が計画されていると報じていますが、BMWの公式発表では、この数字自体は明示されていません。
BMWのWalter Mertl CFOは、エージェント型AIを全社的に活用することで、より俊敏で効率的な開発、スリムな組織、そして迅速な意思決定につなげる考えを示しています。
AIはクルマを賢くするためだけではなく、BMWという巨大企業そのものを小さく、速く動かすためにも利用されようとしているわけです。
背景にはBMWの収益性低下
ここまで大規模な改革を進める背景には、BMWが直面している収益性の問題があります。
Reutersによると、BMWの自動車部門の利益率は現在2.3%まで低下しており、同社は2028年までに3〜5%、さらに2030年代初頭には長期目標である8〜10%へ戻すことを目指しています。
そのため今後はAIだけではなく、商品ラインナップそのものも整理されます。
BMWはモデルバリエーションを削減する方針を示しており、例えば2シリーズ アクティブツアラーについては後継モデルを設定しないことを公式に明らかにしました。
一方で、利益率の高いカテゴリーへの投資は強化され、米国市場では現在のX7より上位に位置する新しい大型SAVの導入も検討されています。
つまりBMWが進めているのは単純なリストラではなく、「売れるクルマ」「利益を生むクルマ」「BMWらしさを生む技術」に経営資源を集中させる再編と見ることができます。
Neue KlasseはBMW改革の出発点
こうした改革の中心にあるのがNeue Klasseです。
BMWはNeue Klasseで新しい電子・電気アーキテクチャを導入し、EVだけではなく、今後のBMW全体へデジタル技術を展開していくための基盤を構築しています。
すでに発表された新世代3シリーズでもNeue Klasseの技術が本格的に導入されており、BMWによれば、ミュンヘン工場では新型i3の生産開始に伴って生産コストをさらに10%削減しています。
ここにAIによる開発、生産、品質管理、企業運営の効率化が組み合わされれば、Neue Klasseは単なる次世代EVプラットフォームではなく、BMWという企業そのものを作り替えるための基盤になっていくでしょう。
AIによって「BMWらしさ」はどう変わるのか
BMWの戦略で興味深いのは、AIによってすべてを自動化しようとしているわけではない点です。
同社は今後、開発・調達・生産において業界内の優れた共通技術を積極的に採用しながら、自社のブランドを競合と差別化できる領域へ開発リソースを集中させる方針を示しています。
これは非常に重要な考え方です。
電動化やSDV化が進むにつれて、自動車メーカー各社が使用する半導体、ソフトウェア、バッテリーなどには共通化できる領域が増えていきます。そのすべてを自社開発するのではなく、差別化につながらない部分では効率を優先し、その分だけ走行性能、ユーザーインターフェース、デザイン、ブランド体験といったBMWならではの部分へ資源を集中するという考え方です。
ただし、これはBMWにとって大きな挑戦でもあります。
「駆けぬける歓び」を掲げてきたBMWにとって、クルマがAIによって高度に統合され、開発プロセスまで自動化されていくなかで、人間が感じるドライビングの楽しさをどこまで残せるのかは重要なテーマになるでしょう。
AI Defined VehicleがBMWらしさを薄めるのか、それともAIによってBMWらしさをさらに際立たせるのか。
Neue Klasseから始まった変革は、単なるEV化以上にBMWの未来を左右するものになりそうです。
参考・出典:Autoblog / BMW Group / Reuters



