フランスを代表する大衆車のひとつ、シトロエン「2CV」が電気自動車として復活します。
シトロエンは2026年10月11日にパリで公開する新型2CVコンセプトに先立ち、そのデザインの一部を捉えたティザー画像を公開しました。オリジナルの2CVが1990年に生産を終了してから36年。単に往年の名車をEV化するのではなく、「誰もが利用できるシンプルな移動手段」という2CV本来の思想を、現代の電動車として再構築することが今回のプロジェクトの大きなテーマとなっています。
市販モデルについては2028年の登場が見込まれており、さらに注目したいのがその価格です。シトロエンCEOのグザヴィエ・シャルドン氏は、補助金適用前で1万5,000ユーロ未満を目標としていることを明らかにしており、仮に1ユーロ=173円で単純換算すると約260万円以下となります。
ティザーから見える「2CVらしさ」
今回公開されたティザー画像では車体全体こそ明らかにされていないものの、新型車がオリジナル2CVのデザインをかなり意識していることが分かります。
特に目を引くのが、膨らんだフロントフェンダーから独立するように配置された半円形のLEDヘッドライトです。さらに、溝の入ったボンネット、クラシカルなドアハンドル、シンプルなホイール、Cピラー付近に配置されたウインカーなど、オリジナルを連想させるディテールが随所に盛り込まれています。
過去に公開されたティザーでは、丸みを帯びたルーフラインを持つ2CV特有のシルエットを受け継ぐことも示唆されており、フロントにはイルミネーション付きのダブルシェブロンエンブレムが採用されるとみられています。
ただし、シトロエンが目指しているのは単純な「レトロカー」ではありません。
同社は新型2CVについて、ブランドのアイコンを現代に蘇らせることで「モビリティをよりシンプルに、より身近に、より人間的に、そしてより魅力的にする」存在になると説明しています。
そもそも2CVとはどんなクルマだったのか

2CVを理解するうえで重要なのは、このクルマが最初から「名車」を目指して開発されたわけではないという点です。
オリジナルの2CVは1948年のパリ・モーターショーで発表されましたが、その開発思想は1930年代まで遡ります。フランスの農村部でも気軽に使える極めて実用的な自動車を作ることが目的で、開発時には「農夫2人と50kgのジャガイモ、あるいは卵を積み、耕した畑を走っても卵を割らない」といった有名な要求が掲げられていました。
つまり重要だったのは豪華さでも速さでもなく、軽さ、低価格、乗り心地、実用性、そして壊れにくさでした。
その結果として誕生した2CVは独特のスタイリングと柔らかなサスペンションを持ち、フランスの庶民に自動車を身近なものにした存在へと成長します。1948年から1990年まで42年間にわたって生産され、最終的には世界で約510万台が製造されました。
新型2CVは「小さくて安いEV」になる
現時点でシトロエンは、モーター出力やバッテリー容量、航続距離といった新型2CVの具体的なスペックを発表していません。
一方、完全な電気自動車になることは明らかにされており、Carscoopsによれば、欧州で検討されている新しい低価格EV向けの規制を想定した専用プラットフォームが採用される可能性があります。
ボディサイズについても正式な数値は明らかになっていませんが、シトロエンC3よりも小さな都市型EVになるとみられており、かつてラインナップされていたC1やC2に近い役割を担うことになりそうです。
さらに同じ基本構造を将来のフィアット車と共有する可能性も報じられています。すでにステランティスでは、小型モビリティのシトロエンAmiとフィアットTopolino、より上のクラスではシトロエンC3とフィアットGrande Pandaが基本構造を共有しており、新型2CVでも同様の戦略を採用すれば開発・生産コストを大幅に抑えられます。
目標価格は1万5,000ユーロ未満
新型2CVにおいて、デザイン以上に重要なのが価格です。
シャルドンCEOは市販モデルについて、補助金適用前で1万5,000ユーロを下回る価格を目指していることを明らかにしています。
単純な日本円換算では約260万円以下となりますが、欧州と日本では税制や物流コスト、装備などが異なるため、仮に日本へ導入された場合の販売価格をそのまま予測することはできません。それでも現在のEV市場を考えれば、1万5,000ユーロ未満という価格設定はかなり野心的です。
実現すれば、四輪車ではシトロエンの最廉価モデルとなる可能性があります。Amiはさらに低価格ですが、欧州では一般的な乗用車ではなく大型クアドリサイクルに分類されるため、新型2CVとは立ち位置が異なります。
高性能化ではなく「必要十分」を目指すEV
ここで興味深いのは、新型2CVが現在のEV市場に対するひとつのアンチテーゼになり得ることです。
近年のEVは航続距離を伸ばすために大容量バッテリーを搭載し、その結果として車両重量と価格が増加する傾向があります。高性能モデルでは0-100km/h加速や最高出力といった数字も競争になっていますが、都市部を中心とした日常移動だけを考えれば、すべてのユーザーがそうした性能を必要としているわけではありません。
オリジナルの2CVが成功した理由も、当時の最高性能を追求したからではなく、人々が本当に必要としていた移動能力を徹底的に突き詰めたからでした。
シトロエン自身も新型について「軽量」「実用的」「多用途」「手頃な価格」といった2CV本来の価値を受け継ぐ方針を示しており、巨大なバッテリーや圧倒的なモーター出力ではなく、必要十分な航続距離と性能に絞ることで価格を抑える可能性があります。
「昔のデザインをEV化」するだけでは2CVにならない
フィアット500やルノー5など、欧州では歴史的な車名やデザインを現代に復活させる動きが続いています。そのなかで2CVの復活は特に難しいプロジェクトかもしれません。
なぜなら2CVの魅力は、丸いヘッドライトや独特のボディラインだけにあったわけではないからです。
必要以上の装備を持たず、軽く、安く、それでいて人々の生活に必要な仕事をきちんとこなすという徹底した合理性こそが2CVの本質でした。そのため、単にクラシックな外観をまとった高価なEVを作ってしまえば、2CVという名前を使う意味そのものが薄れてしまいます。
その点で、シトロエンが最初から「手頃な価格」をプロジェクトの中心に置いていることは非常に重要です。
2028年、「庶民のEV」になれるか

新型2CVはまず2026年10月11日にコンセプトモデルとして公開され、その後、2028年に市販モデルが登場すると見込まれています。
発売時にはルノー・トゥインゴやダチアSpring、BYD Dolphin Surf、さらに今後登場するフォルクスワーゲンの小型EVなど、欧州で急速に拡大する低価格EV市場が主戦場になるでしょう。
しかし2CVには、それらとは少し違う使命があります。
1948年に登場した初代が「自動車をより多くの人へ届ける」という役割を果たしたように、新型は価格上昇が続くEVをもう一度一般ユーザーへ近づける存在になろうとしています。
シトロエンCEOは、2CVについて「アイコンになるために作られたのではなく、人々に自由を与えた結果としてアイコンになった」と説明しています。
EVだから高価である必要はない――。
約80年前に2CVが自動車のあり方を変えたように、新型2CVが「必要なものだけを備えた手頃なEV」という新しい基準を作れるのか。まずは10月11日にパリで披露されるコンセプトモデルの全貌に注目です。
参考・出典:Carscoops / Citroën・Stellantis Media
