フランスのスポーツカーブランド「Alpine(アルピーヌ)」が、次期A110のデザインを予告する実物大のスカルプチャーを公開しました。
2027年の登場が予定される第3世代A110は、現行モデルからデザインを進化させるだけではありません。最大の変化となるのは、これまでのガソリンエンジンから完全電動のEVスポーツカーへと生まれ変わることです。
しかし、A110というクルマにとってEV化は単なるパワートレイン変更ではありません。
現行A110が世界中のスポーツカーファンから支持されてきた最大の理由のひとつは、強大なパワーではなく軽量な車体によって生み出される俊敏なハンドリングにあります。そのため次期型で最も重要なのは、EVとしてどれほど速くなるかではなく、バッテリーを搭載しながら「A110らしい軽さ」をどこまで残せるのかという点でしょう。
布に覆われた次期A110、そのシルエットが初公開

今回Alpineが公開したのは完成車そのものではなく、次期A110のデザインを表現した1:1スケールのスカルプチャーです。
ボディ全体が青いヴェールに包まれているため細かなディテールまでは確認できませんが、シルエットを見る限り、A110であることが一目で分かるデザインになっています。
フロントにはA110を象徴するV字型の造形とデュアルライトのイメージが残され、低く構えたノーズからリアへと続くラインも非常に滑らかです。一方で現行モデルと比較するとボディはより低く、長く、ワイドに見え、従来のコンパクトなスポーツカーからよりスーパーカーに近いプロポーションへ進化する可能性も感じさせます。
Alpineによれば、このスカルプチャーの大きなインスピレーションのひとつになったのが、かつてフランスと英国が共同開発した超音速旅客機「コンコルド」です。
風を受けた瞬間を表現するように張られた青いヴェールによって、軽さと空力性能、そして音速を突破する瞬間のエネルギーを表現したとしています。
デザイン以上に重要なのが「中身」

次期A110で本当に注目したいのは、その美しいスタイリング以上に車体の下に隠された技術です。
第3世代A110には、Alpineが新たに開発した「APP(Alpine Performance Platform)」と呼ばれる専用アーキテクチャが採用されます。
このプラットフォームでは軽量化を重視してアルミニウムを積極的に使用し、EVスポーツカーでありながらA110らしい俊敏な動きを実現することを目標としています。
さらに興味深いのがバッテリーの搭載方法です。
一般的なEVでは大きなバッテリーパックを床下全面に配置する「スケートボード型」が主流ですが、次期A110ではバッテリーを前後2つに分割して配置します。
これによって床面を低く抑え、ドライビングポジションやルーフ高をスポーツカーらしい位置に保つことが可能になります。
同時に前後重量配分についても、スポーツカーとして理想的な前40:後60を目標としている点が特徴です。
800Vシステムと後輪2モーターを採用

電気系統には800Vアーキテクチャが採用され、バッテリーにはセル・トゥ・パック技術と高エネルギー密度セルが組み合わされます。
駆動系も非常に興味深く、リアアクスルには左右それぞれの後輪を制御できる2基の電気モーターを配置します。
さらにAlpine Active Torque Vectoring 2.0とWheel Slip Torque Controlを組み合わせることで、コーナー進入時から立ち上がりまで左右後輪へ送るトルクを緻密に制御し、アンダーステアを抑えながら車体の向きを変えていくことを狙っています。
つまり次期A110は、単純に「モーターの大出力で速いEV」を目指しているわけではありません。
電気モーターだからこそ可能になる瞬間的なトルク制御を、ハンドリング性能のために利用するスポーツカーとして開発されているのです。
最大の問題はやはり重量
一方で、避けて通れない問題があります。
それが重量です。
EVは大容量バッテリーを必要とするため、同クラスのガソリン車より重くなりやすく、これは「軽さ」をブランド哲学としてきたAlpineにとって非常に大きな課題になります。
Carscoopsでは次期A110について、現行モデルから約300kg増加する可能性があると報じています。
もちろん最終的な車両重量はまだ発表されていませんが、仮に大幅な重量増加となれば、いくらモーターによるトルクベクタリングが優秀だったとしても、A110特有の軽快感をどこまで再現できるのかという疑問は残ります。
現行A110の魅力は、アクセルを踏んだ瞬間の加速性能だけではなく、ブレーキング、旋回、荷重移動といった一連の動作すべてに軽さが効いていることです。
だからこそ、次期A110の成功を決める最大の数字は最高出力や0-100km/h加速ではなく「車両重量」になる可能性があります。
実はガソリンエンジンを搭載できる設計
そして、もうひとつ非常に興味深い情報があります。
次期A110はEVとして開発されていますが、APPプラットフォームそのものは内燃機関を搭載できるよう設計されているというのです。
Alpineのフィリップ・クリーフCEOは、プラットフォームが内燃機関に対応できることを認めており、ガソリンエンジン搭載モデルを実際に市販するかについては2026年末までに判断する方針と報じられています。
仮に承認された場合でも、市販までにはさらに2年ほど必要になる可能性があります。
つまり2027年に登場する次期A110はまずEVとしてスタートするものの、将来的にはガソリンエンジン、あるいはハイブリッドを搭載したA110が追加される余地が残されていることになります。
ハイブリッドA110という可能性も
候補となり得るパワートレインについて正式な発表はありませんが、RenaultとGeelyによるHorse Powertrainは複数のハイブリッドシステムを開発しており、その中には最高出力354PS、最大トルク515Nmを発生するシステムも存在します。
ただし、これがA110へ搭載されると決まったわけではなく、現段階ではあくまで技術的な選択肢のひとつとして考えるべきでしょう。
むしろ重要なのは、AlpineがEV一本に完全固定するのではなく、市場環境やスポーツカーユーザーの反応に応じてパワートレインを選択できる余地を残していることです。
スポーツカー市場ではエンジンの音や回転フィール、変速操作そのものを魅力と考えるユーザーも多いため、この柔軟性は今後大きな意味を持つかもしれません。
「EVになったA110」ではなく「A110であるEV」を作れるか
第3世代A110は、Alpineにとって非常に難しい挑戦になります。
800Vシステム、前後分割バッテリー、アルミニウムアーキテクチャ、後輪2モーター、そして高度なトルクベクタリングなど、技術的には非常に意欲的なスポーツカーであることは間違いありません。
しかし、A110という名前に求められているのはスペック表だけではありません。
初代A110から現在のモデルまで受け継がれてきた魅力は、必要以上のパワーに頼らず、軽量な車体を自在に操る楽しさにあります。
だからこそ次期型に求められるのは、単に「A110をEVにすること」ではなく、EVという技術を使って、それでもA110だと思わせるスポーツカーを作ることでしょう。
今回公開されたスカルプチャーを見る限り、そのデザインDNAはしっかりと受け継がれています。
あとは、その美しいボディの下にあるAPPプラットフォームがどこまで重量増加を抑え、現行A110の軽快さを再現できるのか。
次期A110の成否を決めるのは、最高出力ではなく「軽さ」と「操る楽しさ」を守れるかどうか。
2027年に姿を現す第3世代A110は、EV時代におけるスポーツカーのあり方を示す一台になるかもしれません。
参考・出典:Carscoops / Alpine

