「静かであること」は、高級車にとって重要な性能のひとつです。
なかでもロールス・ロイスは、圧倒的な静粛性と滑らかな乗り心地をブランドの大きな価値としてきましたが、その完成度をさらに高めるため、英国グッドウッドの本拠地に新たな専用テスト施設「Eric Platford Testway(エリック・プラットフォード・テストウェイ)」を開設しました。
目的は単純な走行性能の確認ではなく、完成した車両から発生するわずかな異音や振動、ボディの挙動まで徹底的に確認することです。
わずかな「ガタッ」「ミシッ」も見逃さない
新設されたEric Platford Testwayは、シャシーやサスペンション、ボディ構造、インテリアなどに意図的に負荷を加え、通常の舗装路では発見しにくい異音や振動を引き出すための施設です。
ロールス・ロイスはこれを車両を「excite(刺激する)」工程と表現しており、さまざまな路面から一定の入力を与えることで、完成車がブランドの求める品質基準を満たしているか確認します。
施設には4本の並行したレーンが設けられ、それぞれの長さは約90m。合計8種類の路面プロファイルが用意されており、世界各地で遭遇する可能性のある道路環境を再現しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| レーン数 | 4本 |
| 1レーンの長さ | 約90m |
| 路面プロファイル | 8種類 |
| 主な確認対象 | 異音、振動、乗り心地、ボディ剛性、内装部品など |
| テスト対象 | 完成車 |
| 所在地 | 英国グッドウッド |
あえて「悪い路面」を作る
興味深いのは、世界最高峰の高級車をテストするために、あえて乗り心地の悪い路面を作っていることです。
小型・大型の石畳では内装などから発生する異音と乗り心地を確認するほか、「Random Concrete Waves」と呼ばれる区間には2.4m間隔で伸縮継手を設置し、車体に上下方向の入力を加えます。
さらに「Twist Humps」では左右の車輪に異なる入力を与えてボディにねじれ方向の負荷をかけ、「Railway Tracks」では前後のアクスルへ連続的な衝撃を入力します。
| テスト路面 | 主な目的 |
|---|---|
| 小型・大型の石畳 | 異音の検出、乗り心地の確認 |
| Random Concrete Waves | 上下方向の車体挙動を確認 |
| Twist Humps | ボディへねじれ方向の負荷を与える |
| Railway Tracks | 前後アクスルへの連続入力を確認 |
| 円形鉄板 | 左右非対称の入力に対する挙動を確認 |
| Sine Waves | 高周波の振動・共振を確認 |
| Smooth Tarmac | 滑らかな路面での基準確認 |
特にSine Wavesは高さ12mm、間隔300mmの波状路面となっており、高周波の共振を意図的に発生させます。
普段の道路では「特定の速度で走ったときだけ音がする」といった異音が発生することがありますが、こうした条件を再現性のある環境で作り出せることが専用施設の大きなメリットです。
風切り音まで専用設備でチェック
チェックされるのは路面から伝わる振動だけではありません。
Eric Platford Testwayへ入る前には「エアロ・アコースティック・チャンバー」と呼ばれる設備を通過し、高圧かつ可変速度のエアジェットを車体へ吹き付けることで、キャビンへ侵入する風切り音を確認します。
この設備では英国の法定最高速度70mph(約112km/h)を超える速度域までシミュレーションでき、速度制限のない道路を走行するような環境も再現可能です。
実際に高速道路を走らせなくても一定条件で繰り返しテストできるため、車両ごとの差を確認しやすいというメリットもあります。
テストコースだけですべてを完結させるわけではない
一方で、ロールス・ロイスは専用テスト施設だけですべての確認を完結させるわけではありません。
今後も一部の車両についてはグッドウッド周辺に設定されている約8マイル(約13km)の公道ルートを使用し、実際の道路環境でも検証を続けます。
つまり専用施設による再現性の高いテストと、現実の道路を走行する実地テストを組み合わせることで、品質を確認していくことになります。
「静粛性」そのものを商品価値として磨くロールス・ロイス
一般的な自動車であれば気にならない程度の小さな音でも、ロールス・ロイスでは話が変わります。
数千万円クラスの高級車では、エンジン性能や装備だけではなく、ドアを閉めた瞬間の感触や走行中の静けさ、路面から伝わる微細な振動まで含めて商品価値になります。
そのために専用の路面を作り、完成した車両を意図的に揺さぶって異音を探すというEric Platford Testwayは、ロールス・ロイスが「高級車」をどのように考えているのかを象徴する施設ともいえそうです。
ちなみに「Eric Platford」という名称は、ロールス・ロイス創業期にサー・ヘンリー・ロイスのチーフテスターを務めたエリック・プラットフォードに由来しています。
100年以上前から続く「テストして、わずかな違和感まで取り除く」という考え方を、最新設備で現代に受け継いだ施設なのかもしれません。
参考・出典:Rolls-Royce / Autoblog



