ポルシェ911がフラット6を捨てた? フロントにシボレー製ツインターボV8を積む「Repco-Mod 933」が登場

ポルシェ911といえば、リアに搭載された水平対向6気筒エンジンこそが、そのアイデンティティを象徴する存在です。

しかし、その911からフラット6を取り外し、シボレー系のLS V8へ載せ替えるだけでなく、なんとエンジンそのものを車体前方へ移してしまう――そんな常識破りのマシンがオーストラリアで製作されています。

その名は「ShowTime Repco-Mod 933」。

ベースとなっているのは、911として初めて水冷エンジンを採用した996世代です。そこへフロントマウントのツインターボLS V8を組み合わせるという、ポルシェの伝統を根本からひっくり返すようなプロジェクトとなっています。

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996型911をフロントエンジン化

このプロジェクトを手掛けるのは、スタントドライバーのゲイリー・リード氏とShowTimeで、オーストラリアの自動車部品ブランドRepcoがパートナーとして参加しています。

最大の特徴は、やはりパワートレインのレイアウトでしょう。

一般的な911では後輪より後方にエンジンを搭載するリアエンジン方式が採用されていますが、Repco-Mod 933では、その伝統的なレイアウトを完全に放棄。シボレー系のLS V8を車体前方へ移設し、さらにツインターボ化するという大改造が行われています。

つまりこれは、単純な「V8スワップ911」ではありません。

911というクルマを構成してきた「水平対向6気筒+リアエンジン」という2つの大きな特徴を同時に変更するプロジェクトなのです。

なぜ「933」なのか?

車名も興味深く、「Repco-Mod 933」と名付けられています。

ベース車両は996ですが、「933」という名称からも分かるように、これはポルシェ純正のモデルコードではなく、このプロジェクト独自のネーミングです。

ボディにはハンドメイドのエアロキットが組み込まれ、レーシングカーのようなオンボード式エアジャッキも搭載。単にエンジンを載せ替えただけではなく、車体そのものに大規模な加工を施したショーカー/パフォーマンスカーとして仕上げられています。

製作者のリード氏自身も、996が911に水冷エンジンを持ち込んだ世代であることに触れたうえで、自分たちも「いくつかの初めて」を加えるという趣旨のコメントを残しています。

そもそも996は911の歴史を大きく変えた世代だった

今回996が選ばれていることには、少し皮肉な面白さがあります。

996型911は1997年に登場し、それまで30年以上にわたって続いてきた空冷水平対向6気筒から水冷水平対向6気筒へと移行した、911史における大きな転換点でした。

当時は「水冷化された911は本当の911なのか」という議論まで巻き起こりましたが、水冷化によってエンジン温度をより精密に管理できるようになり、4バルブ化や高出力化、さらに厳しくなる排出ガス・騒音規制への対応が可能になりました。

初期の996 Carreraが搭載した3.4リッター水平対向6気筒は300PSを発生し、その後3.6リッター化によって320PSへ向上。911の伝統を守りながら、現代的なスポーツカーへ生まれ変わるための重要な世代となったのです。

そんな「伝統を壊した」と批判されたこともある996が、約30年後には水平対向6気筒どころかリアエンジンまで失い、フロントエンジンV8へ改造されるというのですから、何とも象徴的なプロジェクトです。

LS V8を搭載した911自体は珍しくない

もっとも、911へのLS V8スワップそのものは今回が初めてではありません。

特にアメリカでは、996や997にGM製LS系V8を搭載するコンバージョンが以前から存在しており、専用のエンジンマウントやトランスミッションアダプターまで市販されています。

996の場合、純正のM96型水平対向6気筒に代えて、コルベットなどに使われるLS2やLS3を搭載した例が複数存在します。

一見すると大排気量V8は911には重すぎるように思えますが、LS系の一部はアルミ製ブロック/ヘッドを採用しているため、意外にも重量面で大きなハンデにならないケースがあります。

さらにアメリカではLS系エンジンの流通量が多く、チューニングパーツも豊富です。そのため、壊れたポルシェ製フラット6を高額な費用で修理・交換する代わりに、LSへ載せ替えるという選択肢には、性能だけでなくコスト面での合理性もあります。

今回が異常なのは「V8」ではなく「フロント」

だからこそ、Repco-Mod 933で本当に注目すべきなのは、LS V8を使ったことではありません。

エンジンを前に持ってきたことです。

911は初代から一貫してリアエンジンという基本レイアウトを守り続け、その特殊な重量配分を長年にわたるシャシー開発によって武器へ変えてきました。

エンジンを前方へ移せば重量配分は根本的に変化し、サスペンションのセッティングや冷却系、ステアリング周辺、駆動系などにも大幅な再設計が必要になります。

もはや「エンジンスワップ」という言葉だけでは説明できず、996のボディを素材として新しいスポーツカーを一から作っている、と表現したほうが近いでしょう。

興味深いことに、ポルシェ自身にも924、944、928、968というフロントエンジンのスポーツカーが存在し、とりわけ928はフロントに水冷V8を搭載していました。

その意味ではRepco-Mod 933は、911のボディにシボレーのV8を組み合わせながら、レイアウトだけを見れば、どこか928を極端にしたような存在ともいえます。

「911らしさ」とは何なのか

このクルマを見ると、改めて「何を残せば911なのか」という疑問が浮かびます。

空冷でなければ911ではない――そう語られた時代がありました。しかし996以降、水冷911は完全に定着し、現在ではターボ化や電動化技術まで取り入れながら進化を続けています。

それでも水平対向6気筒とリアエンジンという基本思想は守られてきました。

Repco-Mod 933は、その最後の境界線まで越えてしまいます。

フロントにシボレー系ツインターボV8を積んだ時点で、機械的には一般的な911とはまったく別物です。それでもボディを見れば間違いなく996型911であり、この矛盾こそが、このプロジェクト最大の面白さなのかもしれません。

伝統への冒涜か、それとも究極の911カスタムか

ポルシェの熱心なファンからすれば、水平対向6気筒を取り外すだけでも抵抗を感じるかもしれません。それをさらにフロントへ移し、アメリカンV8をツインターボ化して搭載するとなれば、「そこまでやったら911ではない」という意見が出るのも当然でしょう。

一方で、996はもともと911の歴史の中で大きな常識を破ったモデルでもあります。

空冷から水冷へ――。

そしてRepco-Mod 933は、その996を使って「リアエンジンからフロントエンジンへ」「フラット6からV8へ」という、さらに極端な変化を加えました。

ポルシェ911としての純粋さを求めれば、間違いなく邪道です。

しかし、自動車文化におけるカスタムとは、必ずしもメーカーの思想を守ることだけではありません。「もし911のルールをすべて取り払ったら何ができるのか」という問いに、本気で答えようとしている点では、これほど分かりやすい一台もないでしょう。

Repco-Mod 933は、Repco Bathurst 1000でのデビューが予定されています。

911の象徴だったフラット6を捨て、さらにエンジンまで前へ移した異端の996。その完成形がどのような走りとサウンドを見せるのか、非常に気になるところです。

参考・出典:CarBuzz / AutoTalk Australia / Porsche Newsroom / Porsche

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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