映画史に残るクルマと聞いて、何を思い浮かべるでしょうか。ジェームズ・ボンドのアストンマーティンDB5、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアン、あるいは『ワイルド・スピード』シリーズに登場した数々のスポーツカーなど、スクリーンを通じて実車以上の存在になったクルマは少なくありません。
そんな「映画のクルマ」の中でも、圧倒的な存在感を放つ一台がオークションに登場します。
それが、ティム・バートン監督による1992年の映画『バットマン リターンズ』で使用されたバットモービルです。
しかも今回出品されるのは後年製作されたレプリカではなく、実際の撮影で使用された「Hero Batmobile」。予想落札価格は500万〜700万ドルとされており、上限付近で落札されれば、映画『007』シリーズを象徴するアストンマーティンDB5の有名なオークション記録さえ上回る可能性があります。
これはレプリカではない──実際に映画を走ったバットモービル

今回のバットモービルで最も重要なのは、その素性です。
映画車両の場合、撮影後に製作されたレプリカやイベント展示用車両が市場に出てくることもありますが、この個体は『バットマン リターンズ』の撮影で実際に使用され、劇中の多くの走行シーンに登場したことが確認されているヒーローカーです。
映画のプレミアや撮影終了後のパーティーにも登場し、その後は保管期間を経てMarconi Automotive Museumで展示されていました。さらに、現在も撮影当時からのオリジナルのグロスブラック塗装を残しているとされており、単に「バットモービルと同じ形をしたクルマ」ではなく、映画そのものの歴史を背負った個体といえます。
中身は意外にもシボレーV8

外観だけを見れば、ジェットエンジンでも搭載していそうなバットモービルですが、そのメカニズムは意外なほどアメリカンです。
ベースとなるフレームには、2台分のシボレー・インパラのシャシーを接合した特殊な構造が採用され、その上に巨大なFRP製ボディを載せています。
全長は約19フィート8インチ、メートル換算すると約6mにも達します。
そして、その巨大なボディを動かす心臓部にはシボレー製V8エンジンを搭載し、3速ATが組み合わされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 車両 | Batman Returns Hero Batmobile |
| 登場作品 | 『バットマン リターンズ』(1992年) |
| シャシー | シボレー・インパラ2台分を接合 |
| エンジン | シボレー製V8 |
| トランスミッション | 3速AT |
| 全長 | 約19フィート8インチ(約6m) |
| ボディ | FRP |
| 予想落札価格 | 500万〜700万ドル |
| オークション | 2026年11月23日 |
もちろん現代のスーパーカーのように最高速やニュルブルクリンクのタイムを競うクルマではありません。しかし、巨大なリアフィン、タービンを思わせるフロントノーズ、ジェットエンジンの排気口のようなリアデザインが組み合わされた姿は、30年以上が経過した現在でも一目で「バットモービル」と分かるほど強烈です。
最高700万ドル──約10億円のバットモービルになる可能性
Julien’s Auctionsによる予想落札価格は500万〜700万ドルです。
為替レートによって日本円換算額は変動しますが、700万ドルという金額はおおむね10億円規模となり、もはや映画の小道具という言葉では説明できない世界に入っています。
ただし、この価格にはクルマそのものの性能だけでは説明できない価値があります。
バットマンという世界的IPの知名度、ティム・バートン版バットマンを象徴するデザイン、実際にスクリーンに登場した来歴、そして撮影当時の状態を色濃く残していることなど、複数の希少性が一台に集中しているからです。
つまり今回売買されるのは「シボレーV8を積んだ約6mの特殊車両」ではなく、1990年代の映画文化そのものの一部と考えた方が、この価格を理解しやすいでしょう。
歴代バットモービル最高額も更新する可能性
これまでバットモービルのオークションで特に有名だったのが、1966年のテレビシリーズに登場したオリジナル・バットモービルです。
この車両は2013年に462万ドルで落札されており、今回の『バットマン リターンズ』仕様が予想価格の範囲内で落札されれば、その記録を更新する可能性があります。
さらに興味深いのが、バットマンとは別の映画界を代表するクルマとの比較です。
ジェームズ・ボンドのDB5を超えるのか
映画車両の世界でバットモービルと並ぶ存在といえば、やはりジェームズ・ボンドのアストンマーティンDB5でしょう。
2019年には「Bond Car」として知られる1965年式アストンマーティンDB5が638万ドルで落札されています。
今回のバットモービルが予想最高額となる700万ドルで落札された場合、この638万ドルという金額を上回ります。
バットモービルとDB5は、クルマとしての成り立ちはまったく異なります。DB5はもともとアストンマーティンが生産した高級GTであり、それ自体がクラシックカーとして非常に高い価値を持つ一方、バットモービルは映画のために生み出された特殊車両で、シボレー製V8やインパラ由来のシャシーを使用しています。
それでも両者が同じ価格帯で比較されるところに、映画車両というジャンルの面白さがあります。
クルマとしての価値だけならDB5に分がありますが、映画史における象徴性という意味では、黒い巨大なバットモービルも決して引けを取りません。
ただし「映画車両史上最高額」は少し複雑
ここで注意したいのが、「映画に登場したクルマとして史上最高額になる」という表現です。
映画『栄光のル・マン』で使用された1970年型ポルシェ917Kは、2017年に1,408万ドルで落札されています。
単純に「映画に登場した車両」という括りにすれば、今回のバットモービルが700万ドルで落札されても917Kには届きません。
ただし917Kは、映画用に作られたプロップカーではなく、本物のレーシングプロトタイプとしてモータースポーツ史そのものに価値を持つクルマです。そのため、「映画のための象徴的な車両」と「映画にも登場した歴史的レーシングカー」を同列に扱うかによって、記録の意味は変わってきます。
この点を考えると、今回のバットモービルが注目されているのは、単なる落札額ランキング以上に「映画のために生み出されたクルマに、どこまでの価値が付くのか」という部分でしょう。
30年以上経っても古く見えないデザイン
そして個人的に興味深いのは、このバットモービルが1992年の映画に登場したクルマでありながら、現在見ても強烈な存在感を失っていないことです。
低く長いボディに巨大なリアフィンを組み合わせ、フロントにはタービンを思わせる造形を配置するなど、現実の自動車デザインから意図的に距離を置いたことで、特定の時代の流行に左右されにくいデザインになっています。
もちろん約6mという全長を考えれば、日本の街中を普通に走れるようなクルマではありませんし、仮に落札したとしても日常的にドライブするコレクターはほぼいないでしょう。
それでも「一度でいいから自分のガレージに置いてみたい」と思わせる力が、このクルマにはあります。
バットモービルは「クルマ」を超えてコレクターズアイテムへ
今回のオークションは2026年11月23日に開催される予定で、バットモービル以外にもバットマン関連の衣装や小道具、制作資料などが出品されます。
しかし、その中でも主役になるのは間違いなくこの一台でしょう。
シボレー・インパラ由来のシャシーとV8エンジンという比較的オーソドックスなアメリカ車のメカニズムから生まれながら、映画という舞台を通じて世界で最も有名な架空のクルマのひとつになったバットモービル。
果たして500万〜700万ドルという予想は現実になるのか、そしてジェームズ・ボンドのDB5を超える価格が付くのか。
クルマの性能やブランドだけでは価値を説明できない、映画車両ならではのオークションとして、11月23日の結果に注目です。
参考・出典:Autoblog / Julien’s Auctions




