日産GT-Rといえば、世界のスーパースポーツと真正面から戦ってきた日本を代表する高性能車です。そのGT-Rの技術をSUVへ投入する――そんな大胆な構想が、再び海外で話題になっています。
ベストカーが、日産がGT-Rの技術を活用した「スーパーSUV」を前向きに検討していると伝えたことで、長年くすぶり続けてきた“GT-R SUV”の噂が再燃しました。
ただし、ここで最初にはっきりさせておきたいのは、日産がGT-R SUVの市販化を正式発表したわけではないということです。
現段階ではあくまで噂の域を出ておらず、実現にはいくつもの大きなハードルがあります。
約20年前から存在する「GT-R SUV」という夢
GT-RをSUVにしたらどうなるのか――。
実はこのアイデア自体は新しいものではなく、GT-Rファンの間では長年にわたりCGやカスタムカーなどが作られてきました。
そして日産自身も、GT-RとSUVを組み合わせるという発想と無縁だったわけではありません。
象徴的なのが「ジュークR」です。
コンパクトSUVのジュークへR35 GT-Rの3.8リッターV6ツインターボ「VR38DETT」を搭載するという、常識外れともいえるモデルが実際に製作されました。
さらに日産の高級ブランドであるインフィニティは、QX80にGT-R由来のVR38DETTを搭載した「QX80 R-Spec」を製作しています。
こちらは大幅なチューニングによって最大1,000hpを発揮するコンセプトで、GT-R用カーボンセラミックブレーキや専用サスペンションまで組み合わせています。
つまり「GT-Rの技術をSUVへ」という考え方そのものは、決して荒唐無稽ではありません。
次期GT-Rと共通するV6ハイブリッドを搭載?
今回の噂で興味深いのが、次世代GT-Rとの関係です。
報道では、GT-R SUVがR35の技術を受け継ぎながら、将来的にはV6ツインターボとハイブリッドシステムを組み合わせる可能性も取り沙汰されています。
次期GT-Rそのものについては日産CEOのイヴァン・エスピノーサ氏が開発に取り組んでいることを認めており、GT-Rという名前を将来復活させる意思は明確になっています。
もし次期GT-R用として新しい高性能パワートレインやプラットフォームを開発するのであれば、それを別の高価格帯モデルへ展開するという発想には一定の合理性があります。
GT-R専用として莫大な開発費を回収するより、SUVを含め複数モデルへ技術を展開できれば、投資効率を高められる可能性があるからです。
スーパーSUV市場ならGT-Rのブランド力を生かせる
現在の高性能車市場を見ると、SUVはもはやスポーツカーの対極にある存在ではありません。
ランボルギーニ・ウルス、フェラーリ・プロサングエ、アストンマーティンDBX707、ポルシェ・カイエンといったモデルが存在し、超高性能SUVはひとつの市場として成立しています。
そこで日産が「GT-R」の名前を活用できれば、欧州メーカーとは異なるポジションを狙える可能性があります。
GT-Rには長年培われてきた四輪駆動技術や高性能エンジン、ニュルブルクリンクで築いた実績、そして何より世界的な知名度があります。
仮に700PS級、あるいはそれ以上のパフォーマンスを持つSUVが登場すれば、「日本発のスーパーSUV」として大きな注目を集めることは間違いないでしょう。
しかし、問題はここからです。
そもそも今の日産に、そこまでの体力があるのか
GT-R SUVというアイデアは非常に魅力的ですが、現在の日産を考えると避けて通れない疑問があります。
「今の日産に、次期GT-Rに加えてスーパーSUVまで新規開発する体力があるのか」という問題です。
日産は現在、「Re:Nissan」と呼ばれる経営再建計画を進めています。
2025年度の通期決算では営業利益580億円を確保したものの、当期純損益は5,331億円の赤字となり、自動車事業のフリーキャッシュフローも通期では4,808億円のマイナスでした。
さらにRe:Nissanでは、2024年度実績比で5,000億円規模のコスト削減を掲げるとともに、世界の車両生産拠点を17から10へ集約するなど、大規模な構造改革を進めています。
もちろん状況が悪化し続けているわけではありません。
2026年度第1四半期には営業利益779億円、当期純利益38億円まで回復しており、Re:Nissanによるコスト削減も着実に効果を表し始めています。
それでも、現在の日産が「潤沢な資金を使って好きなクルマを何台でも開発できる状態」とは言いにくいでしょう。
スーパーSUVを本気で開発するのであれば、パワートレインだけでなく、プラットフォーム、シャシー、冷却システム、ブレーキ、電子制御、安全性能など幅広い領域へ巨額の投資が必要になります。
その一方で日産には、販売台数を支える量販モデルの競争力向上や電動化、新型車投入など、経営再建を進めるうえで優先しなければならない課題もあります。
だからこそ、GT-R SUVを完全な専用モデルとしてゼロから開発するのであれば、現時点ではかなりハードルが高いと考えられます。
実現するなら「GT-Rとの技術共有」が鍵か
ただし、GT-R SUVの可能性を完全に否定する必要もありません。
ポイントになるのは、次期GT-Rとどこまで技術を共有できるかでしょう。
次期GT-Rのために開発するパワートレインや電動化技術、四輪駆動システム、電子制御などをSUVへ展開できれば、GT-R SUVを単独で開発する場合とは話が変わってきます。
さらに日産単独ではなく、インフィニティを含めたグループ内で高価格帯モデルとして展開する方法も考えられます。
実際、インフィニティQX80 R-SpecではGT-R由来のエンジンやブレーキを大型SUVへ組み込むという試みがすでに行われています。
市販化とはまったく別の話ではあるものの、「GT-Rの技術をSUVへ移植できる」という技術的なイメージを示した存在としては非常に興味深いモデルです。
GT-Rの名前をSUVに使うことへの賛否も
もうひとつ議論になりそうなのが、「GT-R」という名前そのものです。
GT-Rはスカイライン2000GT-RからR32、R33、R34、そして独立したR35へと続いてきた、日産にとって極めて重要なブランドです。
エスピノーサCEO自身もGT-Rについて特別な存在であり、簡単にどのような車にも使える名前ではないという趣旨の発言をしています。
そのため、単純に高性能SUVへ「GT-R」のエンブレムを付ければよいという話でもありません。
むしろGT-Rの技術を受け継ぎながら、別の車名でスーパーSUVを展開する可能性も考えられるでしょう。
GT-R SUVは夢物語なのか、それとも日産復活の象徴になるのか
現時点では、GT-R SUVが実際に開発されていることを示す公式な情報はなく、今回の話も噂として受け止める必要があります。
そして現在の日産が大規模な経営再建の途中にあることを考えれば、次期GT-Rとは別に莫大な開発費を投じてスーパーSUVを作るというシナリオには疑問も残ります。
一方で、次期GT-Rのために開発する技術を複数の高価格帯モデルへ展開するのであれば話は別です。
GT-Rという世界的なブランドを単なる一台のスポーツカーとして復活させるのではなく、その技術を核として高性能モデル群を構築できれば、日産にとって新しい収益源になる可能性もあります。
かつてGT-Rは「ポルシェ911ターボに対抗する日本車」として世界へ衝撃を与えました。
もし次に日産が狙う相手がウルスやプロサングエ、DBX707だとすれば、それは非常に夢のある話です。
ただ、その夢を実現するためにはまず、現在進めている経営再建を軌道に乗せなければなりません。
GT-R SUV最大のライバルは、欧州のスーパーSUVではなく、今の日産自身の経営状況なのかもしれません。
参考・出典:Autoblog / Nissan / INFINITI


