日本が世界に誇るスーパーカー、ホンダNSXが、イタリアの名門デザインハウスとモータースポーツの技術によって新たな姿で蘇りました。
その名は「JAS Tensei(テンセイ)」。日本語の「転生」に由来する名前が与えられたこのモデルは、初代NSXをベースに、ピニンファリーナがデザインを手がけ、ホンダ車によるレース活動で豊富な実績を持つJAS Motorsportが開発を担当した特別なレストモッドです。
搭載されるのは最高出力425PS級を発揮する3.5L自然吸気V6エンジンで、組み合わされるトランスミッションは6速MT。ハイブリッドシステムやターボチャージャーに頼ることなく、軽量な車体と高回転エンジンによって走る楽しさを追求しています。
生産台数はわずか35台。電動化と高性能化が進む現代に、なぜこれほどまでにアナログなNSXが生み出されたのでしょうか。
初代NSXの魂を残した「Tensei」とは

1990年に登場した初代ホンダNSXは、アルミニウム製モノコックボディやミッドシップレイアウトを採用し、当時のスーパーカーの常識を覆した日本を代表するスポーツカーです。
フェラーリやポルシェといった欧州メーカーが高性能スポーツカー市場を牽引していた時代に、ホンダは高い走行性能だけでなく、日常での扱いやすさや信頼性まで追求しました。その結果、NSXは日本車の技術力を世界に示す存在となったのです。
今回のTenseiを開発したJAS Motorsportは、長年にわたってホンダ車のモータースポーツ活動に携わってきたイタリアの企業です。
一方、デザインを担当したピニンファリーナは、フェラーリをはじめとする数々の名車を手がけてきたことで知られています。
つまりTenseiは、日本が生み出したスーパーカーの基本思想を、イタリアのデザインとレーシングテクノロジーによって再構築したモデルといえます。
なお、これはホンダが正式に発表した新型NSXではなく、初代NSXをベースとする独立したレストモッドプロジェクトです。
3.5L自然吸気V6は最高8,500回転、425PS級の高性能エンジンへ

Tensei最大の魅力は、初代NSXが持っていた自然吸気V6エンジンの特性を、現代の技術によってさらに磨き上げている点にあります。
ベースとなるのは初期型NSXに搭載された3.0L V6エンジン「C30A」で、英国のエンジンスペシャリストであるJUDD Powerが大幅な改良を実施しました。
排気量は3.0Lから3.5Lへ拡大され、独立したスロットルボディやドライサンプ式潤滑システムを採用。最高回転数は8,500rpmに達し、ターボチャージャーを使用することなく425PS級の出力を実現しています。
現代のスーパーカーでは電動モーターや過給器を利用して大出力を獲得することが一般的ですが、Tenseiはエンジンそのもののレスポンスと高回転域のフィーリングを重視しています。
さらに、後輪へ動力を伝えるトランスミッションには6速MTを採用し、トルセン式LSDを組み合わせることで、ドライバーがエンジンの性能を直接引き出せる構成としました。
パドルシフトによる素早い変速ではなく、自らクラッチを操作し、シフトレバーを動かして走るという体験こそが、このクルマの重要な価値なのです。
カーボンボディと最新シャシー技術で走りを進化

初代NSXの特徴だった軽量アルミニウムボディに対し、Tenseiでは外装パネルをカーボンファイバー製へ変更することで、さらなる軽量化を追求しています。
公表されている乾燥重量は約1,250kgで、現代の高性能スポーツカーと比較しても軽量な部類に入ります。
足回りには調整式KWダンパーを採用し、ブレンボ製カーボンセラミックブレーキやセンターロック式ホイールなど、サーキット走行を意識した装備も盛り込まれています。
外観は初代NSXの特徴的な低いボンネットや流麗なシルエットを維持しながら、ワイドなスタンスと現代的な造形によって迫力を増しています。
象徴的なリトラクタブルヘッドライトも残されており、内部の光源をLED化することで、往年のデザインと現代の技術を両立しました。
JAS Tenseiの主要スペック

| 項目 | スペック |
|---|---|
| ベース車両 | 初代ホンダNSX |
| 開発 | JAS Motorsport |
| デザイン | ピニンファリーナ |
| エンジン開発 | JUDD Power |
| エンジン | 3.5L V型6気筒自然吸気 |
| 最高出力 | 約425PS級 |
| 最高回転数 | 8,500rpm |
| トランスミッション | 6速MT |
| 駆動方式 | MR(後輪駆動) |
| LSD | トルセン式 |
| 車体 | アルミシャシー+カーボン外装 |
| 乾燥重量 | 約1,250kg |
| フロントホイール | 19インチ |
| リアホイール | 20インチ |
| 生産台数 | 世界限定35台 |
※出力は海外媒体によってhp、bhp、PSの表記が異なるため、約425PS級として記載しています。重量は乾燥重量であり、通常の車両重量とは異なります。
価格は1億円超え、35台だけの特別なNSX
Tenseiの価格については、英国の自動車メディアTop Gearが88万ユーロと報じています。
これは仮に1ユーロ=175円で換算すると約1億5,400万円に相当する金額で、さらにベースとなる初代NSXの車両代金や税金、追加オプションなどが必要です。
つまり、完成車を手に入れるための総額はさらに高額になる可能性があります。
これほどの価格設定となる背景には、35台という極めて少ない生産台数に加え、専用カーボンボディ、エンジンの大規模な改良、そしてオーナーごとの仕様に合わせた製作工程があります。
単に古いNSXを美しく修復するのではなく、現代の技術を用いて一台ずつ新たな価値を与えることが、このプロジェクトの本質といえるでしょう。
電動化時代だからこそ、自然吸気V6とMTに価値がある

2016年に登場した2代目NSXは、ツインターボV6エンジンと3基の電動モーターを組み合わせたハイブリッドシステムを採用し、初代とは異なる方法で高性能を追求しました。
その進化は技術的に大きな意味を持つものでしたが、一方で、初代NSXのような軽量な車体と自然吸気エンジン、そしてマニュアルトランスミッションによる一体感を求めるファンも存在します。
Tenseiが興味深いのは、単に過去のNSXを再現するのではなく、当時のホンダが大切にしていたドライバーとクルマの関係を、現在の技術水準で再解釈していることです。
絶対的な加速性能だけを追求するのであれば、電動化や過給器の採用という選択肢もあったはずです。しかし、あえて自然吸気V6と6速MTを選択したことに、このプロジェクトの明確な方向性が表れています。
今後、こうした純粋な内燃機関スポーツカーがますます希少になるとすれば、Tenseiの価値は最高出力や最高速度だけでは測れないものになるでしょう。
まとめ|NSXの「転生」が示す日本製スーパーカーの価値
JAS Tenseiは、初代ホンダNSXという日本の名車が、誕生から35年以上を経てもなお世界の自動車ファンを魅了し続けていることを象徴する存在です。
ピニンファリーナのデザイン、JAS Motorsportのレーシング技術、JUDD Powerが仕上げた自然吸気V6エンジンという組み合わせは、初代NSXが持っていた魅力を現代に伝えるうえで非常に興味深いものとなっています。
もちろん、1億円を大きく超える価格と35台限定という希少性を考えれば、誰もが手にできるクルマではありません。
それでも、世界的な名門企業が日本のスポーツカーを題材に、これほど大規模なプロジェクトを実現したこと自体に大きな意味があります。
ホンダが生み出したNSXは、単なる過去の名車ではなく、今なお新たなスーパーカーを生み出す原点として評価されているのです。
参考・出典:Autoblog / Road & Track / Top Gear / Quattroruote




