フェラーリ599 GTB Fioranoをベースに製作された、世界に1台の「Daytona Shooting Brake Hommage(デイトナ・シューティングブレーク・オマージュ)」がオークションに登場します。
オランダのコーチビルダー、Niels van Roij Design(ニールス・ファン・ローイ・デザイン)が手掛けたこのモデルは、1972年に製作された特別なフェラーリ365 GTB/4 Daytona Shooting Brakeへのオマージュとして誕生しました。
製作に費やされた時間は、実に15,000時間以上。
ベースとなった599 GTB Fioranoの面影を残しながらも、ドアを除くほぼすべてのボディパネルが新たにデザインされており、単なるカスタムカーとは一線を画す1台となっています。
1972年の「Daytona Shooting Brake」を現代に再解釈

このクルマを理解するうえで欠かせないのが、1972年に誕生したフェラーリ365 GTB/4 Daytona Shooting Brakeの存在です。
365 GTB/4、通称「デイトナ」をベースとするこのモデルは、フェラーリの歴史の中でも極めて異色の存在でした。
今回のDaytona Shooting Brake Hommageは、そのオリジナルをそのまま再現したレプリカではありません。
特徴的なロングルーフや垂直に近いリアウインドウ、後端を切り落としたようなKamm-tail(カムテール)など、1972年のモデルが持っていた個性を取り入れながら、現代的なプロポーションへと再構築されています。
つまり、50年以上前のデザインをコピーするのではなく、その思想を現代のグランドツアラーで表現したモデルといえるでしょう。
ベースはフェラーリ599 GTB Fiorano

Daytona Shooting Brake Hommageのベースとなったのは、フェラーリ599 GTB Fioranoです。
599 GTB Fioranoは2006年に登場したフロントエンジンV12のグランドツアラーで、ピニンファリーナがデザインを担当したフェラーリを代表する1台です。
搭載されるのは6.0リッター自然吸気V12エンジン。
ベースとなる599 GTBでは最高出力620PSを発生し、0-100km/h加速は約3.7秒、最高速度は330km/hを超える性能を誇りました。
現代ではフェラーリにも電動化の波が押し寄せていますが、599 GTBは大排気量の自然吸気V12をフロントに搭載する、クラシカルなフェラーリGTの魅力を色濃く残したモデルでもあります。
その599をベース車両に選んだことも、今回のプロジェクトをより特別なものにしています。
ドア以外のボディパネルをほぼすべて新設

Daytona Shooting Brake Hommageは、599 GTBのリアセクションだけを変更したような単純なコンバージョンではありません。
Niels van Roij Designによれば、ドアを除くすべてのエクステリアボディパネルが新たにデザインされています。
ボディにはアルミニウムが使用され、職人の手によって成形されています。
長く伸びたルーフラインの先には垂直に配置されたリアウインドウを採用。
その左右には、電動で開閉する特徴的な「バタフライ・サイドウインドウ」が設けられています。
これは1972年のDaytona Shooting Brakeを強く意識したディテールです。
一方でボディ全体のプロポーションは599 GTBに合わせて再構築されており、単なる復刻ではなく、現代のクルマとして成立するデザインが追求されています。
製作時間は驚異の15,000時間以上
このクルマの最大の特徴のひとつが、その製作工程です。
Niels van Roij Designによると、デザイン、エンジニアリング、そして実際の製作を合わせ、15,000時間以上が費やされました。
プロジェクトではスケッチだけでなく、実物大のクレイモデリング、デジタルサーフェシング、CADによるエンジニアリング、さらに物理的なプロトタイプ製作など、量産メーカーの車両開発にも通じる工程が採用されています。
そして最終的なアルミニウムボディは、職人の手によって成形されています。
現在の自動車生産では巨大なプレス機によって同じボディパネルを大量生産することが一般的ですが、Daytona Shooting Brake Hommageはまったく異なる世界で作られています。
「世界に1台」を作るために15,000時間以上を費やす。
その事実こそが、現代におけるコーチビルドという文化の贅沢さを象徴しているのかもしれません。
インテリアにも歴史的なモチーフを採用

変更されているのはエクステリアだけではありません。
インテリアにも、過去のシューティングブレークから着想を得たデザインが取り入れられています。
特に特徴的なのが、ダッシュボード中央に配置された計器類です。
さらにコニャックカラーのレザーをシート、ダッシュボード、ドアパネル、ルーフライニング、ラゲッジスペースなどに使用。
カーボンファイバーも組み合わせることで、クラシックな雰囲気と現代的な素材感を融合させています。
単に599 GTBの外側だけを作り替えるのではなく、室内を含めてひとつの作品として仕上げられていることが分かります。
予想落札価格は45万~65万ユーロ
そして、この世界に1台のDaytona Shooting Brake Hommageが新たなオーナーの手に渡ることになります。
Broad Arrow Auctionsは、2026年10月9日にベルギーで開催される「Zoute Concours Auction」に同車を出品する予定です。
予想落札価格は45万~65万ユーロ。
日本円に換算すれば為替によって変動するものの、およそ8,000万円から1億円を超える価格帯となります。
もちろん通常の599 GTB Fioranoとは単純に価格を比較できません。
15,000時間以上を費やして製作されたワンオフのアルミニウムボディ、そして1972年のDaytona Shooting Brakeを現代に蘇らせたストーリーそのものが、このクルマの価値を形成しているからです。
実際にオークションでどの程度の評価を受けるのかにも注目したいところです。
なぜ今、コーチビルドが魅力的なのか

現在のスーパーカー市場では、メーカー自身が非常に高度なパーソナライゼーションプログラムを用意するようになりました。
ボディカラーやレザー、ステッチ、カーボンパーツなどを細かく指定することで、自分だけの仕様を作ることができます。
しかしDaytona Shooting Brake Hommageは、そのさらに先にあります。
既存のクルマの仕様を選択するのではなく、ボディそのものを作り直してしまうからです。
かつて高級車の世界では、メーカーからシャシーを購入し、顧客が好みのコーチビルダーにボディ製作を依頼する文化が存在していました。
大量生産と効率化が進んだ現代の自動車産業において、そうした文化は非常に希少なものになっています。
だからこそ、15,000時間をかけて世界に1台だけのクルマを作るという行為そのものに価値が生まれているのでしょう。
599 GTBが「作品」へと生まれ変わった1台

フェラーリ599 GTB Fioranoは、それだけでもV12フェラーリを代表する魅力的なグランドツアラーです。
しかしDaytona Shooting Brake Hommageは、その599を素材として、50年以上前のワンオフ・フェラーリの思想を現代に蘇らせました。
ドア以外のほぼすべてのボディパネルを作り直し、15,000時間以上を費やして完成した世界に1台のシューティングブレーク。
これは単なる599 GTBのカスタムモデルというよりも、クラシックなコーチビルド文化を現代の技術とデザインで表現した「作品」と呼ぶ方がふさわしいのかもしれません。
そして10月のオークションで市場がこのクルマにどのような価値を付けるのか。
その落札結果にも注目です。
参考・出典:Motor1 / Niels van Roij Design / Broad Arrow Auctions




