プジョーは2026年10月、パリモーターショーの開幕を前に、新たなコンセプトカー「RCZ Vision(RCZビジョン)」を発表しました。
2015年に生産を終了したスポーツクーペ「RCZ」の名が約11年ぶりに復活したことになりますが、今回のモデルは単に過去の名車を現代風に蘇らせたものではありません。最高出力500PSの電動パワートレインに加え、全固体電池や1,000Vの高電圧システムを採用するなど、プジョーが描く次世代スポーツカーの姿を具現化しています。
もっとも、現時点で市販化が正式に決定したわけではなく、RCZ Visionには今後のプジョー車に採用されるデザインや技術を示す役割も与えられています。
初代RCZの個性を受け継ぐ、未来的なスポーツクーペ

初代プジョーRCZは2009年に登場し、2015年まで販売された2ドアスポーツクーペです。当時のプジョーとしては珍しい独立したスポーツモデルであり、アウディTTのライバルとしても注目を集めました。
その最大の特徴は、ルーフ中央に2つの膨らみを持たせた「ダブルバブルルーフ」と、ルーフラインに沿って伸びるアルミニウム製アーチでした。一般的なクーペとは一線を画す造形は、実用車を中心に展開していたプジョーのブランドイメージに新たな魅力を与えたといえるでしょう。
今回発表されたRCZ Visionでも、この象徴的なデザインが継承されています。ただし、従来の意匠をそのまま再現するのではなく、ボンネットから車体後方まで連続するガラスキャビンと組み合わせることで、より未来的なシルエットへと進化しました。
また、ダブルバブルルーフの形状は後席の頭上空間にも配慮しており、デザイン上の個性と室内空間の確保を両立させようとしています。
新デザイン言語「Feline Future」が示すプジョーの未来

RCZ Visionには、プジョーが新たに掲げるデザイン言語「Feline Future(フェライン・フューチャー)」が採用されています。
これはライオンをブランドの象徴とするプジョーらしく、猫科動物のしなやかさや力強さを車両デザインに反映させる考え方であり、自由、勇気、優雅さ、内なる力、本能という5つの理念を中心に構成されています。
フロントには、従来の縦方向を基調としたライティング表現を再解釈した、水平配置の3本のLEDライトを採用。薄型ヘッドライトや発光式エンブレムと組み合わせることで、低く構えた車体に独特の存在感を与えています。
リアにも同様の3本のライトシグネチャーが取り入れられているほか、初代RCZを思わせる可動式リアスポイラーも装備されました。このスポイラーは停車中には車体に格納され、走行時に展開することで空力性能の向上に貢献します。
足元にはフロント21インチ、リア22インチの鍛造アルミホイールを装着し、前後で異なるサイズを採用することで、スポーツカーらしい力強いプロポーションを強調しています。
最高出力500PS、航続距離600kmを目指す次世代EV
RCZ Visionの注目点は、外観だけではありません。
ステランティスの新しい「STLA One」プラットフォームを基盤とし、米国Factorial Energyとの協力によって開発された全固体電池を採用することで、高い動力性能とエネルギー効率の両立を目指しています。
RCZ Visionの主要スペック
| 項目 | 仕様 |
|---|---|
| 車名 | プジョー RCZ Vision |
| 車両区分 | 電動スポーツクーペ・コンセプト |
| プラットフォーム | STLA Oneベース |
| 最高出力 | 500PS(約493hp) |
| 駆動方式 | 未公表 |
| バッテリー | 全固体電池 |
| バッテリー厚 | 約110mm |
| 電気システム | 1,000V |
| 航続距離 | 最大600km(目標値) |
| 電費 | 11.5kWh/100km(目標値) |
| 急速充電 | 10〜80%を約10分 |
| ホイール | 前21インチ/後22インチ |
| 市販化 | 未定 |
特に注目したいのが、わずか110mmというバッテリーの薄さです。従来の電気自動車では、床下に搭載するバッテリーが車高や着座位置の設計を制約する場合がありますが、薄型化によって低いルーフラインとスポーツカーらしいドライビングポジションを実現しやすくなります。
さらに、1,000Vの電気システムによって充電時間を短縮し、バッテリー残量10%から80%まで約10分で回復させるという目標も掲げています。
ただし、これらはコンセプトカーとして示された技術目標であり、市販車で同等の性能が実現されると確定したわけではありません。
四角いステアリング「Hypersquare」が変える運転体験

インテリアでは、プジョー独自の「i-Cockpit」をさらに進化させた次世代コックピットが採用されています。
その中心となるのが、従来の円形ステアリングとは大きく異なる「Hypersquare(ハイパースクエア)」です。
四角形に近い独特の形状を持つこの操作デバイスは、ステアリング操作を電気信号に変換するステア・バイ・ワイヤ技術と組み合わされており、従来の機械的なステアリング機構とは異なる操作感を実現することが期待されています。
また、透明なMicro LEDディスプレイを用いた新しい表示システムも導入され、運転に必要な情報を視界に自然に組み込むことを目指しています。
近年は大型ディスプレイを次々に搭載するメーカーが増えていますが、プジョーは単純に画面を増やすのではなく、必要な情報を直感的に確認できる環境を重視しているようです。
一方、センターコンソールには空調や走行モードを操作する物理スイッチも残されており、先進性だけを追求するのではなく、運転中の操作性にも配慮した設計となっています。
RCZは本当に市販車として復活するのか

ここで気になるのが、RCZ Visionが将来的に市販モデルへ発展する可能性です。
初代RCZはプジョーのブランドイメージを高めた一方、2015年にはラインアップ整理の一環として生産を終了しました。その後、世界的にSUV人気が高まり、スポーツクーペ市場が縮小したこともあり、RCZのような独立した2ドアモデルが再び登場することは容易ではありません。
実際、かつて競合関係にあったアウディTTも生産を終了しており、スポーツクーペを取り巻く市場環境は初代RCZの登場時から大きく変化しています。
こうした状況を踏まえると、RCZ Visionがそのまま量産化される可能性については慎重に考える必要があるでしょう。
ただし、プジョーがあえてRCZという名前を復活させたことには意味があります。
電動化によって自動車の基本構造や走行性能が変化するなか、メーカーが独自性を示すためには、単なるスペック競争だけでなく、ブランドならではの感性やデザインが重要になります。
RCZ Visionは、そうしたプジョーの方向性を示す象徴的な存在であり、仮にRCZそのものが市販されなかったとしても、今後登場する新型車にデザインや技術が受け継がれていく可能性があります。
日本市場への導入は期待できるのか

現時点ではRCZ Visionの量産計画が発表されていないため、日本導入についても具体的な情報はありません。
もっとも、初代RCZは日本でも正規販売されており、プジョーのなかでも独特の存在感を持つモデルとして知られていました。
仮に次世代RCZが市販化されれば、日本市場でも一定の注目を集めることが予想されますが、価格や販売規模については慎重な判断が必要です。
特に、全固体電池や1,000Vの高電圧システムを採用した高性能EVとして登場する場合、初代RCZのような比較的身近なスポーツクーペとは異なる価格帯になる可能性があります。
その一方で、RCZ Visionのデザイン要素や新型i-Cockpitが量販モデルに採用されれば、日本のユーザーも次世代プジョーの技術に触れる機会を得られるでしょう。
まとめ:RCZの復活が示す、プジョーの新しい挑戦
今回発表されたRCZ Visionは、懐かしいスポーツクーペの名前を復活させながら、その中身を最先端の電動技術によって大きく進化させたコンセプトカーです。
特徴的なダブルバブルルーフを継承しつつ、500PSの出力や全固体電池、次世代ステアリングシステムを組み合わせた姿には、かつてのRCZが持っていた個性を新しい時代に引き継ごうとする意図が感じられます。
もちろん、コンセプトカーとして魅力的であることと、実際に市販できることは別の問題です。技術的な実現性や生産コスト、そしてスポーツクーペ市場の規模を考えれば、量産化までには乗り越えるべき課題も少なくありません。
それでも、SUVや実用車が中心となった現在のプジョーが、再び低く美しいスポーツクーペを通じて走る楽しさを表現したことは、注目に値する動きでしょう。
RCZ Visionが単なるデザインスタディに終わるのか、それとも新世代のフレンチスポーツクーペ誕生につながるのか、今後の展開が期待されます。
参考・出典:Peugeot/Stellantis Media/Motor1/Auto Express/Top Gear
