日産、米国で19か月連続成長も世界販売は2003年以来の低水準へ 復活の裏に潜む深刻な危機

日産自動車の経営再建に、思わぬ矛盾が浮かび上がっています。

アメリカ市場では19か月連続で個人向け販売が前年同月を上回り、経営再建計画「Re:Nissan」の成果が見え始めています。しかし、その一方で世界全体の販売台数は減少を続けており、2026年の年間販売台数が2003年以来の低水準に落ち込む可能性が明らかになりました。

わずか数日前、MOTION & TIMEでは、日産がアメリカで19か月連続の販売成長を達成したことを紹介しました。

ところが、世界販売の実態を見ると、アメリカでの好調だけでは日産全体の苦境を覆せないことが分かります。

特に深刻なのが、かつて日産の成長を支えた中国市場の急激な縮小です。アメリカで復活の兆しを見せながら、世界では販売規模を失い続ける日産に何が起きているのでしょうか。

目次

世界販売は前年同期比9.2%減 年間300万台割れが現実味

Automotive Newsが集計したデータによると、日産の2026年1月から8月までの世界販売台数は200万台弱となり、前年同期比9.2%減少しました。

この販売ペースが年末まで続いた場合、2026年の年間販売台数は290万台をわずかに上回る程度にとどまり、2003年以来の低水準となる可能性があります。

日産が年間300万台を達成するためには、9月から12月までの4か月間で毎月約26万7,000台を販売する必要がありますが、これは8月の実績を約29%上回る水準です。

項目2026年の状況
世界販売台数(1〜8月)200万台弱
前年同期比−9.2%
年間販売見通し290万台超
年間300万台達成に必要な月販約26万7,000台
8月実績比で必要な増加率約29%
想定される歴史的位置付け2003年以来の低水準

新型車の投入によって販売が回復する可能性はあるものの、世界各地で競争が激化するなか、短期間でこれほど大幅な販売増加を実現することは容易ではありません。

なお、年間290万台超という数字は現時点での販売動向に基づく試算であり、2026年の確定実績ではありません。

アメリカでは復活が進む 19か月連続成長は決して偶然ではない

世界販売の低迷とは対照的に、アメリカでは日産の販売戦略が着実に成果を上げています。

2026年1月から9月までの個人向け販売台数は55万7,568台となり、前年同期比8.1%増加しました。法人向けなどを含む総販売台数も71万6,283台で、前年同期比0.6%増となっています。

さらに、2026年第3四半期には、フロンティアの個人向け販売が前年同期比44%増、アルマーダが42%増、ローグが41%増を記録しました。

これらの数字が示しているのは、日産が単に販売奨励金やレンタカー会社向けの大量販売によって台数を積み上げているわけではないということです。

同社は個人顧客への販売を重視する方針へ転換しており、2026年第3四半期のレンタカー向け販売は前年同期比45%減少しています。

指標米国販売の状況
個人向け販売(1〜9月)557,568台
個人向け販売前年比+8.1%
総販売台数(1〜9月)716,283台
総販売前年比+0.6%
個人向け販売の連続成長19か月
フロンティア(第3四半期)+44%
アルマーダ(第3四半期)+42%
ローグ(第3四半期)+41%

特に重要なのは、総販売台数の伸びが0.6%にとどまる一方で、個人向け販売が8.1%増加している点です。

これは販売の量だけでなく、顧客構成の改善を目指していることを示しており、販売店の収益性やブランド価値を考えるうえでも意味のある変化といえます。

実際、日産はアメリカの販売店における平均収益性も前年から改善していると説明しており、経営再建が少なくとも一部の地域では機能し始めていることがうかがえます。

ただし、アメリカでの成長が世界全体の回復を意味するわけではありません。

中国市場の失速が深刻 2018年の年間150万台から急減

日産の世界販売を押し下げている最大の要因が、中国市場です。

2018年、日産は中国で年間約150万台を販売していました。当時の中国は日産にとって極めて重要な市場であり、世界販売を支える大きな柱となっていました。

しかし、2026年1月から8月までの中国販売台数は28万9,410台にとどまり、前年同期比27%減少しています。

さらに、8月単月では前年同月比52%減という厳しい結果となりました。

指標中国市場
2018年年間販売約150万台
2026年1〜8月販売289,410台
2026年1〜8月前年比−27%
2026年8月単月前年比−52%

2018年の年間実績と2026年の8か月間の実績は対象期間が異なるため、単純な減少率では比較できません。それでも、かつて年間150万台を販売していた巨大市場が、現在の日産にとって大きな重荷になっていることは明らかです。

背景にあるのは、中国メーカーの急速な成長です。

BYDなどの現地メーカーは、電気自動車やプラグインハイブリッド車を中心に商品競争力を高めており、価格だけでなく、車載ソフトウェアやデジタル装備でも存在感を強めています。

かつて日本メーカーが品質や信頼性を武器に優位性を築いていた中国市場では、消費者がクルマに求める価値そのものが変化しつつあります。

日産も中国向けの電動車を展開していますが、市場全体の変化に対して販売回復が追い付いていないのが現状です。

そして、この中国メーカーとの競争は中国国内だけにとどまりません。フィリピンをはじめとする東南アジアでも中国車の存在感が高まり、日産の販売に影響を及ぼしています。

なぜ米国の好調だけでは世界販売を救えないのか

ここで重要なのが、アメリカと中国における販売台数の規模の違いです。

2026年1月から9月までのアメリカの個人向け販売は前年同期比8.1%増となりましたが、総販売台数では0.6%増にとどまっています。

一方、中国では1月から8月までの販売台数が27%減少しており、主要市場の一つで大幅な販売減が続いています。

つまり、アメリカでは個人顧客を中心に販売の質が改善しているものの、世界全体の販売台数を押し上げるほどの増加には至っていないのです。

加えて、カナダや欧州などでも販売台数が減少しており、中国以外の地域でも課題が残されています。

ここには、日産の経営再建を考えるうえで重要な問題があります。

販売台数を増やすことと、収益性の高い販売体制を構築することは、必ずしも同じではありません。

アメリカではレンタカー向け販売を抑えながら個人顧客への販売を増やす戦略が進んでいますが、世界全体では市場シェアの低下や商品競争力の問題が販売台数に表れています。

したがって、日産の現状を単純に「復活している」あるいは「衰退している」と評価するのは適切ではなく、地域ごとに異なる実態を見極める必要があるでしょう。

中国で開発した日産車を世界へ 新たな戦略が始動

世界販売の縮小に対応するため、日産は中国の開発・生産拠点を活用した新たな戦略にも動き始めています。

2026年10月8日、日産は中国の合弁事業である鄭州日産が開発・生産するピックアップトラック「フロンティア Pro」と「ナバラ Pro」を海外市場へ展開する計画を発表しました。

これらは、中国で開発・生産され、世界市場への輸出を前提とした日産の新たなモデルです。

ナバラ Proは2026年にフィリピンと中東で販売を開始し、2027年にはオーストラリアとニュージーランドにも投入される予定となっています。

また、販売地域に応じてガソリンエンジンやプラグインハイブリッドの仕様を用意するほか、中国で展開する電動セダン「N7」についても、ASEAN諸国や中南米への輸出を検討しています。

これまで中国は、日産にとって現地で大量に生産・販売する重要市場でした。しかし今後は、中国での開発力や生産体制を活用し、海外市場に商品を供給する拠点としての役割も強まっていくと考えられます。

日本の自動車メーカーが中国で開発したクルマを世界へ輸出するという動きは、世界の自動車産業における競争構造の変化を象徴するものといえるでしょう。

ローグe-POWERは米国再建の切り札となるか

日産が今後のアメリカ市場で期待を寄せているのが、2026年11月に投入予定の新型ローグe-POWERです。

ローグは日本市場のエクストレイルに相当するSUVであり、日産のアメリカ事業を支える重要なモデルです。

アメリカではトヨタRAV4やホンダCR-VなどのハイブリッドSUVが高い人気を集めており、日産にとっても競争力のあるハイブリッドモデルの投入が重要な課題となっていました。

新型ローグは日産独自のe-POWER技術を採用し、燃費性能と電動車らしい走行フィールを両立することで、競争力の向上を目指しています。

日産は2027年末までにアメリカで年間100万台規模の販売を目指しており、ローグe-POWERの成否はその実現を左右する重要な要素となりそうです。

ただし、ローグの販売が伸びたとしても、それだけで中国市場の大幅な減少を補えるとは限りません。

アメリカでの回復を維持しながら、中国や東南アジアなどでも競争力を取り戻せるかが、日産全体の再建を左右することになります。

日産の経営再建は成功しているのか 問われるのは販売台数より利益

日産は経営再建計画「Re:Nissan」に基づき、生産体制の見直しや固定費削減を進めています。

世界販売が縮小するなかで従来の生産能力を維持すれば、工場の稼働率低下や固定費負担が収益を圧迫するため、事業規模を実際の需要に合わせることは避けられない課題です。

しかし、今回の世界販売データを見て、経営再建が失敗していると結論付けるのも早計でしょう。

アメリカでは個人向け販売の増加や販売店収益性の改善が進んでおり、従来の大量販売に依存する構造からの転換が見え始めています。

一方で、販売台数の減少が長期化すれば、研究開発費や新型車への投資を回収することが難しくなり、将来の商品競争力にも影響を及ぼす可能性があります。

日産が目指すべきなのは、単純にかつての販売台数を取り戻すことではなく、適切な利益を確保しながら、顧客に選ばれる魅力的なクルマを継続して投入できる経営体制を構築することです。

その意味で、アメリカの販売回復は再建への第一歩ではあるものの、世界全体での再建が実現したことを示すものではありません。

米国での復活と世界での苦境 日産の未来を左右する2026年

今回のニュースで浮き彫りになったのは、日産の経営再建が地域によって大きく異なる段階にあるという事実です。

アメリカでは19か月連続の個人向け販売成長を達成し、SUVやピックアップトラックを中心に顧客の支持を取り戻しつつあります。

しかし、中国市場では販売台数の大幅な減少が続き、欧州や東南アジアでも競争環境が厳しさを増しています。

その結果、アメリカでの回復という明るい材料がありながら、世界全体では2003年以来の低水準に落ち込む可能性が生じているのです。

日産が今後、本当の意味で復活したと評価されるためには、アメリカで進めている収益性重視の戦略を成功させるとともに、他の主要市場でも商品競争力を回復する必要があります。

そして何より重要なのは、コスト削減によって会社を小さくすることだけではなく、再び世界中の顧客が欲しいと思えるクルマを生み出すことではないでしょうか。

アメリカで見え始めた復活の兆しを、世界全体の成長へとつなげられるのか。

2026年は、日産の経営再建が一部地域の成果にとどまるのか、それとも世界規模での復活へ進むのかを見極める重要な一年となりそうです。

参考・出典:Autoblog / Automotive News / Nissan Motor

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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