メルセデス・ベンツを中心とした高性能チューニングで世界的に知られるドイツのBRABUS(ブラバス)が、日本のストリートカルチャーを代表する藤原ヒロシ氏率いる「fragment design(フラグメントデザイン)」と手を組み、特別な電動バイク「BRABUS URBAN E FRAGMENT EDITION」を発表しました。
フランスの電動バイクメーカーDAB Motors(ダブ・モーターズ)を加えた3者によって開発されたこのモデルは、世界限定わずか10台という希少性に加え、5万ドル(1ドル=150円の参考換算で約750万円)という高額な価格設定でも注目を集めています。
最高出力37PS、最高速度120km/hという性能だけを見れば、決して突出したスペックではありません。しかし、このモデルが目指しているのは、単純な速さを競うことではなく、自動車の高級チューニング、モーターサイクルの技術、そしてストリートファッションという異なる文化を融合させることにあります。
メルセデスのチューナー「ブラバス」が電動バイクを手掛ける理由

BRABUSといえば、メルセデス・ベンツのAMGモデルをさらに高性能化したコンプリートカーや、Gクラスをベースとした大胆なカスタマイズで知られるブランドです。
その特徴は、エンジン出力の向上だけでなく、カーボンファイバーを多用した外装、独自のホイール、上質なレザーインテリアなどを組み合わせ、量産車を特別な存在へと仕立て上げる点にあります。
近年は自動車以外の分野にもブランドの世界観を広げており、2026年4月のミラノ・デザインウィークでは、DAB Motorsと共同開発した電動バイク「BRABUS URBAN E」を発表しました。
今回のFRAGMENT EDITIONは、そのURBAN Eをベースに、藤原ヒロシ氏のデザイン哲学を取り入れた特別仕様です。
BRABUSが得意とする存在感の強いデザインと、fragment designが追求するミニマリズムは、一見すると対照的ですが、既存の製品を独自の解釈によって新しい価値へと昇華させるという点では、共通した思想を持っているともいえます。
藤原ヒロシとは何者なのか、世界のブランドが注目する日本人デザイナー

藤原ヒロシ氏は、日本のストリートファッションや音楽カルチャーに大きな影響を与えてきたクリエイターであり、「ストリートカルチャーのゴッドファーザー」とも呼ばれる人物です。
自身が主宰するfragment designは、ナイキやルイ・ヴィトンをはじめとする世界的ブランドとの協業で知られ、象徴的な稲妻のロゴと、黒や白を中心としたシンプルなデザインを特徴としています。
今回のコラボレーションが生まれたきっかけは、2026年4月のミラノ・デザインウィークでした。
藤原氏が街中でBRABUSの電動バイクを偶然目にし、その造形に魅力を感じたことから交流が始まり、やがて専用モデルの開発へと発展したとされています。
つまり、今回のFRAGMENT EDITIONは、最初から計画された企業間のコラボレーションというよりも、一人のデザイナーが偶然出会った製品に魅了されたことから誕生したモデルなのです。
ブラックとホワイトだけで表現した、ブラバスの新しい世界観
FRAGMENT EDITIONの最大の特徴は、徹底したモノクロームのカラーリングです。
車体の大部分をブラックで統一しながら、ホワイトのカーボン製ホイールカバー、ホワイトのブレーキキャリパー、そして専用のホワイトレザーシートを組み合わせることで、一般的なBRABUSの製品とは異なる、洗練された印象を生み出しています。
特に目を引くのが、BRABUS Masterpiece仕様のレザーシートです。ブランド独自の「Shell」パターンによるキルティングが施されており、高級車のインテリアを思わせる仕上がりとなっています。
また、車体各部にはカーボンファイバーが採用され、フロントフェンダーやモーターカバー、アンダーカウルなどにも専用のディテールが与えられました。
フロントには発光式のBRABUSエンブレムを配置し、リアにはfragment designのロゴを組み込んだ透明感のある専用LEDテールランプを採用しています。
派手なエアロパーツや大型ホイールによって存在感を主張するBRABUSの自動車とは異なり、今回は色彩を極限まで抑えることで、造形そのものの美しさを際立たせている点が興味深いところです。
最高出力37PS、最大トルク475Nmの電動パワートレイン
車体の中身は、基本的に通常のBRABUS URBAN Eと共通しています。
搭載する電動モーターは最高出力37PSを発生し、後輪で測定した最大トルクは475Nmに達します。
ただし、この475Nmという数値はモーター軸ではなく後輪でのトルクであり、一般的な自動車のエンジントルクと単純に比較できるものではありません。
最高速度は120km/h、航続距離は市街地走行で最大150kmとされており、長距離ツーリングよりも都市部での移動や短距離のスポーツライディングを想定した性能といえるでしょう。
BRABUS URBAN E FRAGMENT EDITION 主要スペック
| 項目 | スペック |
|---|---|
| パワートレイン | 電動モーター |
| 最高出力 | 37PS(ピーク出力) |
| 定格出力 | 8kW |
| 最大トルク | 475Nm(後輪測定値) |
| 最高速度 | 120km/h |
| バッテリー容量 | 7.1kWh |
| バッテリー電圧 | 72V |
| 最大航続距離 | 150km(市街地) |
| 複合航続距離 | 約120km(WMTC) |
| 充電時間 | 約3.5〜4時間(0〜100%) |
| 駆動方式 | カーボンベルト駆動 |
| 走行モード | Eco / Street / Sport / Nitrous / Reverse |
| 生産台数 | 世界限定10台 |
| 米国向け価格 | 50,000ドル(税別) |
走行モードには、日常走行向けのStreet、省電力を重視するEco、レスポンスを高めるSportに加え、最大10秒間のブーストを可能にするNitrousモードも用意されています。
さらに、車体を後退させるReverseモードまで備えており、電動バイクならではの制御技術が取り入れられている点も特徴です。
約750万円の電動バイク、価格の大部分は希少性とデザインへの対価
今回のFRAGMENT EDITIONで特に注目したいのが、その価格設定です。
米国向け価格は5万ドルで、日本円に換算すると約750万円。ドイツでは付加価値税込みで53,550ユーロとされており、仮に1ユーロ=175円で換算すると約937万円に相当します。
一方、通常のBRABUS URBAN Eは欧州で22,900ユーロ(税別)とされており、同じ税別条件で比較すると、FRAGMENT EDITIONの45,000ユーロは約2倍の価格です。
しかも、両モデルの基本的な電動パワートレインや車体構成に大きな違いはありません。
それでも高額な価格が設定されている背景には、世界10台という生産規模と、藤原ヒロシ氏が手掛けた特別なデザイン、そしてBRABUSというブランドが持つ付加価値があります。
このモデルは、一般的な電動バイクのように性能と価格のバランスで評価する商品ではなく、希少な時計や限定スニーカー、アート作品に近い価値観で販売されていると考えられます。
もちろん、将来的な資産価値の上昇が保証されているわけではありませんが、世界的に知名度の高い3者が共同開発し、生産台数をわずか10台に絞ったことは、コレクターにとって大きな魅力となるでしょう。
自動車とファッションの境界線がなくなりつつある
今回のFRAGMENT EDITIONは、2026年10月にロサンゼルスで開催されたComplexConで世界初公開されました。
ComplexConは、一般的なモーターショーとは異なり、ストリートファッション、スニーカー、音楽、アートなどが交差するカルチャーイベントです。
BRABUSがこの舞台を選んだことには、電動バイクを単なる移動手段としてではなく、ライフスタイルやファッションの一部として提案したいという狙いがうかがえます。
実際に今回の発表では、バイク本体だけでなく、レザーグローブ、ライダースジャケット、フリースジップフーディーなどの限定アパレルコレクションも用意されています。
高級自動車メーカーがファッションブランドと協業する例は珍しくなくなりましたが、BRABUSのようなチューニングブランドが電動モビリティを通じてストリートカルチャーへ踏み込む動きは、今後のブランド戦略を考えるうえでも興味深いものです。
日本での販売はあるのか、10台限定モデルの入手は極めて困難
現時点で、日本国内向けの正式な販売価格や正規導入については明らかになっていません。
DAB Motorsの公式サイトでは予約受付が案内されていますが、割り当てはメーカー側の確認を経て決定される仕組みであり、予約しただけで購入が確約されるわけではありません。
仮に日本への輸入が可能だったとしても、車両本体価格に加えて輸送費や税金、国内での登録に必要な確認などが発生する可能性があります。
さらに、生産台数が世界でわずか10台ということを考えると、一般的な販売店で気軽に購入できるモデルになるとは考えにくいでしょう。
ただし、日本人デザイナーである藤原ヒロシ氏が開発に深く関わっていることから、日本のファッションコレクターや高級車愛好家の間でも注目を集める可能性があります。
まとめ:速さではなく、所有する意味を追求したブラバスの挑戦
BRABUS URBAN E FRAGMENT EDITIONは、電動バイクとしての性能だけで評価すれば、決して合理的な買い物とはいえません。
しかし、BRABUSの高級チューニング技術、DAB Motorsの電動モビリティ開発力、そして藤原ヒロシ氏のデザイン哲学が融合したことで、従来のバイクとは異なる魅力を持つ製品に仕上がっています。
特に印象的なのは、世界限定10台という極端な希少性を持ちながら、過剰な装飾ではなく、ブラックとホワイトのシンプルなデザインによって特別感を表現している点です。
高級車の世界でも、単純な最高出力や加速性能だけでは差別化が難しくなりつつあるなか、ブランドの背景やデザイン、所有体験そのものが重要な価値になっています。
今回のFRAGMENT EDITIONは、そうした変化を象徴する一台であり、BRABUSが今後、自動車の枠を超えてどのようなブランドへ進化していくのかを示す興味深い存在といえるでしょう。
参考・出典:Motor1 / BRABUS / DAB Motors / Ultimate Motorcycling / Motorcycles.News




