ベントレー、ディーラーの「受付」を廃止へ。代わりにバーを設置する理由とは

高級車ディーラーと聞くと、入口には受付カウンターがあり、スタッフに名前や来店目的を伝えてから商談スペースへ案内される——そんな光景を思い浮かべる人も多いでしょう。

しかしベントレーは、こうした従来型の自動車ディーラーのあり方そのものを変えようとしています。ブランド初のEV「Torcal(トーカル)」の登場に合わせて新しいショールームデザインを導入し、世界各地の販売拠点を、単にクルマを販売する場所ではなく「ベントレーというブランドを体験する空間」へと進化させる計画です。

その象徴ともいえるのが、これまで当たり前のように設置されていた受付デスクをなくし、代わりにバーを設けるという大胆な変更です。

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受付カウンターではなく「バー」でゲストを迎える

ベントレーが目指しているのは、ショールームに入った瞬間から商談を意識させる空間ではありません。

新しい店舗では、受付デスクの代わりにバー形式のスペースを設けることで、ホテルやラグジュアリーラウンジのような落ち着いた雰囲気を演出します。来店した顧客を「商談客」として受付するのではなく、ブランドに招かれたゲストとして迎える考え方であり、自動車販売店というよりも、オーダーメイドの商品を相談する「アトリエ」に近い空間を目指しています。

ベントレーのような超高級車ブランドでは、車両そのものだけでなく、購入までの時間もブランド体験の一部です。そのため、入口で受付を済ませて商談席へ移動するという従来の流れから離れ、飲み物を楽しみながらスタッフと会話し、その延長線上で自然に仕様やパーソナライゼーションについて相談できる環境へ変えていく狙いがあると考えられます。

クルマを並べるショールームから「ギャラリー」へ

変わるのは受付だけではありません。

一般的な自動車ディーラーでは複数の展示車をフロアに並べるスタイルが主流ですが、新しいベントレーの店舗では、車両をギャラリーやラウンジのようなエリアに配置します。インテリアにも暖かみのあるアースカラーを取り入れ、いわゆる「自動車販売店らしさ」を薄めながら、住宅や高級ホテルにも通じる居心地の良さを演出していきます。

さらに、ベントレーが得意とする素材選びやカラーコーディネートなどのパーソナライゼーションについても、デジタル技術と従来の実物サンプルを組み合わせながら体験できるようになります。

つまり、完成車を見て購入する場所というより、自分だけのベントレーを作り上げる場所へとショールームの役割そのものを変えようとしているわけです。

最初に生まれ変わったのはロンドンの老舗ディーラー

新しいショールームコンセプトをいち早く導入したのが、ロンドンの「Jack Barclay Bentley」です。

同店は1927年に開業した、世界で最も長い歴史を持つベントレーディーラーとして知られています。約100年にわたってベントレーを販売してきた象徴的な店舗を、新時代のショールームへと最初に生まれ変わらせた点にも、ブランドの意図が感じられます。

ベントレーは今後、この新しいビジュアルアイデンティティを世界約220拠点の販売ネットワークへ展開する計画で、受付デスクのないベントレーショールームが世界各地で見られるようになりそうです。

初のEV「Torcal」とともに始まるベントレーの新時代

今回の店舗改革が興味深いのは、単独のリニューアルではなく、ベントレー初の量産EV「Torcal」の登場と連動していることです。

Torcalはブランドにとって4番目の主要モデルラインとなる電動SUVで、通常モデルは810hp、上位のTorcal Sでは875hpを発揮すると報じられています。また、113kWhのバッテリーを搭載し、WLTP基準で最大375マイル(約604km)の航続距離を想定するなど、電動化時代のベントレーを象徴するモデルとなります。

ただしベントレーが変えようとしているのは、パワートレインだけではありません。クルマがEVへ移行しても、職人技や素材、パーソナライゼーションといったブランドの価値を失わないためには、購入体験についても同時にアップデートする必要があります。

その答えのひとつが、今回の新しいショールームなのでしょう。

「クルマを売る場所」ではなく「時間を過ごしたくなる場所」へ

受付デスクをバーに置き換えるという話だけを見ると、単なる内装デザインの変更にも思えます。しかし、その背景にあるのは、高級車販売における顧客との接点を根本から見直す動きです。

数千万円クラスのクルマを購入する顧客にとって、店舗で過ごす時間やスタッフとの会話、仕様を決めていくプロセスまで含めて商品価値の一部になり得ます。そのため、効率良く受付をして商談を進める従来型のディーラーよりも、思わず長く滞在したくなるラウンジのような場所のほうが、ベントレーというブランドには似合うのかもしれません。

初のEV「Torcal」によってクルマそのものが新しい時代へ踏み出す一方、販売店もまた「ディーラー」から「ブランドを体験する空間」へ変わろうとしています。

受付カウンターをなくしてバーを置くという小さな変化は、実はベントレーが考える次世代の高級車販売を象徴する、大きな一歩といえそうです。

参考・出典:Autoblog / Bentley

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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