フィアットが変形する新型「Multiplay」を発表|6人乗りファミリーカーがピックアップに変わる革新的コンセプト

イタリアの自動車メーカー、フィアット(FIAT)は、2026年10月のパリモーターショーに合わせて、新たなコンセプトカー「Multiplay(マルチプレイ)」を発表しました。

一見すると個性的なデザインのコンパクトSUVにも見えるこのモデルですが、最大の特徴は、車体後部の構造を変化させることで、6人乗りのファミリーカーから4人乗りのピックアップトラックへと姿を変えられる点にあります。

全長わずか4,450mmという比較的コンパクトなボディに、MPV(多目的乗用車)、SUV、ピックアップトラックという3種類の車両の特徴を融合させたMultiplayは、単なる奇抜なデザインの提案ではありません。

そこには、家族構成や生活スタイルの変化に合わせて自動車そのものが形を変えるという、フィアットならではの新しいモビリティの考え方が込められています。

目次

最大の特徴は、ファミリーカーからピックアップへ変形する車体構造

Multiplayの革新性を象徴しているのが、「C-Pillar Metamorfosi(Cピラー・メタモルフォージ)」と呼ばれる可変式の車体構造です。

このシステムでは、車体後部のモジュールを専用のガイドに沿ってスライドさせることで、通常の屋根付きファミリーカーから、荷台を備えたピックアップトラックへと車両の構成を変更できます。

通常のファミリーモードでは6人分の座席と追加の多機能ユニットを備えていますが、ピックアップモードに切り替えると乗車定員は4人となり、後部には自転車やアウトドア用品、大型の荷物などを積載できるオープンデッキが出現します。

さらに、通常は空力性能に関わるリアスポイラーにも工夫が施されており、回転させることで最大2台の自転車を搭載できる専用ラックとして利用できる設計です。

一般的なファミリーカーでは、大きな荷物を積むために後席を倒したり、ルーフキャリアを追加したりする必要があります。しかしMultiplayでは、車両そのものの構造を変えることで乗員スペースと積載能力のバランスを調整するという、これまでとは異なる解決策を提示しています。

全長4,450mmに凝縮された3種類の車の役割

Multiplayは、SUVの存在感、MPVの居住性、そしてピックアップトラックの積載能力を、1台の車両にまとめることを目指しています。

現在公表されている主な仕様は以下のとおりです。

項目内容
車名FIAT Multiplay
車両区分コンセプトカー
全長4,450mm
ボディタイプ可変式MPV/SUV/ピックアップ
乗車構成6席+多機能ユニット
ピックアップ時4人乗り
変形機構C-Pillar Metamorfosi
自転車積載最大2台
パワートレイン未発表
量産化未定

全長4,450mmというサイズは、日本でも扱いやすいコンパクトSUVに近いものであり、巨大なピックアップトラックを必要とせずに多目的な使い方ができる点は魅力的です。

特に、平日は子どもの送迎や買い物に使用し、週末には自転車やキャンプ用品を積んで出かけるといった生活を考えると、Multiplayが提案する可変式ボディの利点が見えてきます。

子どもやペットまで考えた独創的な室内空間

Multiplayのユニークな発想は、車体構造だけでなく室内にも取り入れられています。

その代表例が、「Petsenger seat(ペッセンジャーシート)」と呼ばれる多機能ユニットです。

このユニットは、チャイルドシートの取り付けスペースとして利用できるほか、ペット専用の場所、小型テーブル、収納スペースなど、用途に合わせた使い方を想定しています。

ペットとの移動を考慮して、クッションの一部を取り外してリードとして使える仕組みや、ドア内部に収納できる折りたたみ式の水飲みボウルまで用意されている点も特徴的です。

また、一般的な3列シート車では窮屈になりがちな最後列についても、子ども2人、あるいは必要に応じて大人が利用できる空間として設計されており、限られたボディサイズの中で家族全員の快適性を確保することが重視されています。

一方、助手席には「Sunseat(サンシート)」という機能が採用され、停車中にシートを後方へ向け、ダッシュボードを背もたれとして利用することで、パノラマルーフの下にくつろげるラウンジ空間を作り出せます。

単に移動するための道具としてではなく、停車中も家族が時間を過ごせる空間として自動車を捉えている点に、フィアットらしい遊び心が感じられます。

デザインのモチーフはスイカ|イタリアらしい大胆な色使い

Multiplayの外観と内装には、イタリアの夏を象徴するスイカから着想を得たカラーリングが採用されています。

鮮やかなグリーンのボディカラーはスイカの皮を、室内に用いられたレッドやピンクのアクセントは果肉をイメージしており、一般的なSUVに多い落ち着いた配色とは対照的な仕上がりです。

素材についても環境への配慮が盛り込まれ、室内の柔らかな部材には、製造時の廃棄物削減を目的とした縫い目のない3Dニット技術を採用しています。

さらに、子どもやペットが利用する場所には防水性を持たせるなど、デザイン性だけでなく日常生活での使いやすさも考慮されています。

ダッシュボードには、電源を切ると視界から消えるディスプレイが組み込まれており、デジタル技術を前面に押し出すのではなく、必要なときだけ自然に利用できる設計となっています。

原点は1956年のフィアット600ムルティプラ

Multiplayの発想を理解するうえで欠かせないのが、フィアットが過去に生み出した「Multipla(ムルティプラ)」の存在です。

1956年に登場したフィアット600ムルティプラは、全長約3.5mという小さなボディでありながら、最大6人が乗車できる画期的なパッケージングを実現しました。

その思想は1998年に登場したムルティプラにも引き継がれ、こちらは全長4m未満の車体に、前席3人・後席3人という独創的な2列6人乗りレイアウトを採用しています。

特に1998年型は、その非常に個性的なフロントデザインでも知られていますが、見た目のインパクト以上に、限られた寸法の中で最大限の居住空間を確保するという明確な設計思想を持った車でした。

今回のMultiplayは、そうしたムルティプラの精神を現代的に再解釈したモデルといえます。

かつてのムルティプラが「小さな車体に多くの人を乗せる」ことを追求していたのに対し、Multiplayでは「1台の車でできることを増やす」という方向へ進化しており、単純な復刻モデルとは異なる存在となっています。

実際に市販化できるのか|最大の課題は安全性と製造コスト

Multiplayは非常に魅力的なアイデアを備えていますが、現時点でフィアットは具体的な量産モデルを予告する車両ではないと説明しています。

実際に市販化を目指す場合、最大の課題になると考えられるのが、可動式の車体構造を採用しながら、衝突安全性や車体剛性、耐久性、防水性をどのように確保するかという問題です。

一般的な自動車では、ルーフやピラーが車体全体の強度を支える重要な役割を果たしています。そのため、Cピラー周辺を動かすMultiplayの構造を量産車に採用するには、固定式ボディとは異なる高度な設計が求められるでしょう。

また、可動機構の追加は車両重量や製造コストの増加につながる可能性があり、手頃な価格で実用的な車を提供してきたフィアットのブランド戦略との両立も重要になります。

一方で、今回発表された仕組みのすべてを市販化しなくても、シートの多機能化や収納システム、車内空間の使い方など、一部のアイデアが将来のフィアット車に採用される可能性は十分に考えられます。

日本市場との相性は良好か|ミニバンと軽トラックの中間という新しい発想

日本市場に目を向けると、Multiplayのコンセプトには興味深い可能性があります。

日本ではミニバンやコンパクトSUVがファミリーカーとして広く普及する一方、軽トラックや軽商用バンも荷物の運搬やアウトドア用途で利用されています。

しかし、家族で快適に移動できる乗用車と、大きな荷物を積める商用車では求められる性能が異なるため、両方の用途を満たそうとすると、どうしても何らかの妥協が必要になります。

Multiplayのように、必要なときだけ荷台を持つ車両へ変化できれば、1台で日常の移動からレジャーまで幅広く対応できる可能性があります。

もっとも、日本では衝突安全基準への適合に加え、車体構造の変更に伴う登録上の取り扱いや積載物の安全確保など、解決すべき課題も少なくありません。

それでも、限られた駐車スペースの中で1台の車を多目的に利用したいという需要を考えれば、フィアットが提示した方向性は日本でも十分に検討する価値があるでしょう。

Multiplayが示すのは、SUVの次に来る自動車の姿

現在の自動車市場ではSUVが主流となっていますが、ボディサイズの大型化が進む一方で、実際の使い勝手が必ずしも向上しているとは限りません。

そのような中、フィアットが提案したMultiplayは、車を大きくするのではなく、用途に応じて機能を変えることで利便性を高めようとしています。

もちろん、変形機構を備えた車体をそのまま量産することは容易ではなく、現段階では技術的な実現性やコスト面に未知数の部分が残されています。

しかし、1956年の600ムルティプラや1998年のムルティプラが常識にとらわれない室内設計を追求してきたように、今回のMultiplayにも、既存の自動車カテゴリーを見直そうとするフィアットの姿勢が表れています。

SUV、ミニバン、ピックアップという異なる車種を1台に融合させる発想は、今後のファミリーカー開発に新しい視点をもたらすかもしれません。

Multiplayは単なる変わったコンセプトカーではなく、「家族の暮らしに合わせて車が変化する」という未来の可能性を示した1台といえそうです。

参考・出典:FIAT / Stellantis Media / Autoblog / Top Gear

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この記事を書いた人

メルセデス・ベンツ正規ディーラーを中心に、自動車業界で10年以上の経験を持つ筆者。販売現場で培った経験をもとに、高級車・新型車を中心とした自動車情報を独自の視点で発信しています。

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